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「ピカドン」56年ぶり復刻 故福島菊次郎さん初期代表作 被爆者の姿 生々しく写す

 2015年に94歳で亡くなった報道写真家、福島菊次郎さんの初期の代表作「ピカドン ある原爆被災者の記録」が、56年ぶりに復刻された。広島の被爆者と家族の苦悩を10年間にわたり追った写真集。生々しいカットの数々が、反戦や反原発の信条を貫いた生涯の原点を伝える。

 B5判変型、122ページ。広島市の江波(現中区)に住んでいた漁師中村杉松さん方に、1951年8月から通い詰めて撮影した写真を収める。晩年を柳井市で過ごした福島さんは当時、下松市や徳山市(現周南市)に住んでいた。

 中村さんは被爆の後遺症に悩まされた。痛みに耐えながら体をかきむしる手、床に伏せて苦悶(くもん)する表情、苦しさのあまり自ら脚にカミソリ刃で付けた無数の傷痕…。「毎日はげしい痛みがつづき、頭がわれる、体中がちぎれると叫んでのたうちまわった」と、福島さんは記録する。育ち盛りの子どもを抱えて経済的にも困窮し、病身を押して漁に出る姿も捉えている。

 原本は61年に東京中日新聞(中日新聞社)から刊行された。壮絶な被爆者の実態を埋もれさせたくないと取材を始めたが、最初はシャッターを切る勇気が出なかったという。アマチュアだった福島さんは、本作で評価を確立し、プロの写真家に。安保闘争や軍需産業、原発などをテーマに、反骨精神に満ちた取材を重ねた。

 福島さんと親交が深く、今回の復刻に尽力したフォトジャーナリスト那須圭子さん(56)=光市=は「ぐいぐいと被写体に迫っていくタイプの福島さんが、当初は一枚も撮れずに帰ってきたと聞いて驚いた」と振り返る。「強大な国家を相手に訴えるという、福島さんと中村さんの共通の思いがこの写真を撮らせたのだろう。国家とは何なのか、今を生きる私たちは二人から問いを突き付けられている」と話す。

 復刊ドットコム刊、5400円。(鈴木大介)

(2017年7月5日朝刊掲載)

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