×

社説・コラム

社説 G20首脳会合 「1対19」を協調に戻せ

 米国の変容に疑念が募る。ドイツで開かれた20カ国・地域(G20)首脳会合である。トランプ大統領が掲げる米国第一主義と多国間の国際協調主義とがぶつかり、「1対19」の構図が強まった。米国の孤立は年初の政権交代から懸念されてきたとはいえ、世界の行く末に落とす影が濃くなっている。

 地球温暖化対策の全体討議のさなか、トランプ氏は席を立った。ロシアのプーチン大統領などとの個別会談を優先させたのだ。その振る舞いに、各国首脳もあきれたに違いない。

 トランプ氏が全体討議に強硬姿勢で臨んでくるのは、ある程度予想されていた。米国の石炭産業保護などを理由に、温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」からの離脱を先月表明していたからだ。

 内向きな発想は、全人類の利益とは相反する。これまで米国が国際社会で果たしてきた、けん引役を放棄するどころか、聞く耳さえ持とうとしない態度は目に余る。もはや世界のリーダーたり得ないと感じた首脳も少なくあるまい。

 温暖化対策に限らず、トランプ氏は、貿易でも米国第一主義を押し通そうとしている。G20首脳会合でのもう一つの懸案が、その「行き過ぎた」保護主義だった。トランプ氏のかねての主張に加え、鉄鋼製品の関税を引き上げる輸入制限案を検討していることが会合の直前に判明したせいである。

 米政府は「国防上の理由」「安全保障のため」とし、具体的な根拠をなぜか明らかにしない。大統領選でトランプ氏を支持した勢力に、寂れた鉄鋼業地帯からの支援が目立った。安易なポピュリズム政治で世界を混乱に追いやることを、見過ごすわけにいかない。

 勝手気ままな米国に比べ、中国とロシアが温暖化対策などで協調路線を見せたのは、ある意味で驚きでもあった。かといって、中ロが新リーダーになれる情勢にはない。国際社会の流れとは相いれない部分がある。

 一つは、核・ミサイル実験を続ける北朝鮮への制裁強化に中ロが慎重な点だ。もう「後ろ盾」をやめるべきではないか。加えてロシアには、ウクライナ問題を巡って武装集団を支援した過去もある。

 G20の枠組みができたのは、9年前のリーマン・ショックがきっかけだった。震源地の欧米や、ロシアを含む当時の先進8カ国(G8)では金融危機を封じ込められず、インドなど新興国を巻き込む必要があった。

 国際協調の枠組みが期待されたものの、近年は外交や環境問題に議題が拡大。足並みが乱れ、2国間の首脳会談のウエートが増している。

 安倍晋三首相も今回、中国や韓国、ロシアなどと首脳会談を持った。尖閣諸島や慰安婦問題、北方領土の帰属といった溝は埋め切れず、成果は乏しかったと言うほかない。トランプ氏との蜜月をアピールするのが精いっぱいで、期待された「橋渡し役」は果たせなかった。

 20カ国の首脳が一堂に会する場である。内向きな発想にとらわれず、世界の秩序安定や繁栄に知恵を絞ってもらいたい。2年後には、日本でG20首脳会合が開かれる。テロ対策や移民問題など、国際協調が欠かせぬ課題は山積みのままである。

(2017年7月10日朝刊掲載)

年別アーカイブ