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社説・コラム

「共謀罪」法施行 山田弁護士に聞く 「市民は対象外」あり得ない

 犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」を新設する改正組織犯罪処罰法が11日、施行された。改正法で世の中がどう変わり、市民はどう向き合うべきか。広島弁護士会の山田延広弁護士(68)に聞いた。(村田拓也)

 改正法の施行で、政府に反対したり、盾突いたりした人が共謀罪の捜査対象になるのを最も心配している。政府は適用を「組織的犯罪集団」に限ると説明する一方、正当な活動をしていた団体でも目的が一変した場合は対象になるとしている。判断するのは捜査機関で、一般市民が対象にならないことはあり得ない。

 共謀罪の対象犯罪は277。犯罪の実行後の処罰を原則としてきた日本の刑法体系は大きく変わる。

 基本的には人を傷つけたり、被害を与えたりするなどして初めて刑罰の対象となるのが、近代刑法の基本原理だ。その上で重大な犯罪は未遂で、さらに重大な殺人などは予備段階で、内乱罪などは計画段階で処罰できる規定を設け、個別に罪を定めてきた。一括して網を掛けるのはこれまでにない手法だ。

 たとえば強盗罪は、予備罪の量刑は「2年以下の懲役」だが、共謀罪では「5年以下の懲役・禁錮」となる。予備の前の計画段階の方が重い罪となるのは不合理だ。傷害罪は予備で罰する規定がないのに、共謀罪の対象となる。細かく検討したとは思えない。

 大分県警による隠しカメラの設置や、風力発電建設計画の反対運動を巡る岐阜県警の情報の収集など、捜査機関による市民監視は強まっているとみる。

 共謀罪は市民の心の中をのぞき見するのを前提としている。例えばお金を下ろす場合、テロ資金に充てるためなら犯罪の準備行為となり、家計のためなら犯罪が成立しない。目的を知るために必要と、いずれ盗聴を拡大する動きが出るのは間違いない。

 安全保障関連法や特定秘密保護法の制定、米海兵隊岩国基地(岩国市)への空母艦載機の移転などでも政府批判を続けている。

 街頭活動中に警察官がやってきて、交番に呼ばれる事例が生じている。きっかけは誰かの通報。「自分と違う思想は許せない」という考えが根底にあるのでは、と危惧する。異なる意見を権力によって抑えようとするのであれば重大な問題だ。

 憲法が認める思想・良心の自由は、考えや意見の違う人が思いを述べたり、発表したりする自由を命がけで守ろうという発想だ。異なる意見を尊重し、互いに議論を重ねていく民主主義の原理を守っていくという姿勢が市民に求められる。

やまだ・のぶひろ
 1949年生まれ。早稲田大法学部卒。広島県職員などを経て79年に弁護士登録。2005年から広島弁護士会会長も務めた。現在は市民団体「ストップ!戦争法 ヒロシマ実行委員会」の共同代表を務める。庄原市出身。

(2017年7月11日朝刊掲載)

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