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社説・コラム

社説 自民党の憲法論議 「9条加憲」案 筋通らぬ

 自民党が憲法改正に向け新たな議論を始めた。秋に想定される臨時国会に党としての案を出す方針だ。安倍晋三首相の意向に沿った形だが、党内にさえ慎重論がある。なぜ急ぐのだろう。そもそも改正は必要か。はっきりしないままでは、国民の理解は到底得られまい。

 安倍首相は、なぜか2020年の改正憲法施行を目標に掲げる。都議選で惨敗しても、前のめり姿勢は揺るがず、方針に変更はないと強調した。自らの政治姿勢への反省はうかがえず、敗因を真剣に分析した節は見られない。

 連立を組む公明党は、積極姿勢にくぎを刺す。山口那津男代表は改憲について「政権として取り組むものではない」と経済再生優先の考えを示している。

 それでも自民党の憲法改正推進本部は今月5日、議論を急ぐ方針を確認した。9条への自衛隊明記や教育無償化など4項目を8月までに集中論議する。日程ありきではないのだろうか。

 中身にも疑問がある。特に、唐突に打ち出された9条への自衛隊明記である。

 首相は、戦争放棄を定めた9条1項と戦力不保持を掲げた2項は残しつつ自衛隊を明記する「9条加憲」を提案した。9条改正に慎重な公明党に配慮しながら「違憲」との批判をかわす狙いだろうが、改正する必要性や緊急性があるとは思えない。

 自民党の推進本部は9条とは別建ての「9条の2」を新設する考えだ。首相の言う9条3項を設けるより、今の9条を堅持する姿勢を鮮明にできる狙いがある。しかし、これでも2項との整合性の問題は解決しない。

 2項を残すと矛盾が固定化する―。本紙連載中の「『9条加憲』を考える」で、石破茂・元自民党幹事長が指摘している。12年にまとめた党草案では2項を削除し、自衛隊を軍として規定するとした。その草案を今後どう位置付けるのか。「総裁のひと言でひっくり返るなら組織政党ではない」(石破氏)との指摘はうなずける。

 軽武装、経済重視路線の派閥宏池会を率いる岸田文雄外相も9条改正に慎重だ。今すぐの改正は考えていないと派の会合で述べた。核兵器も戦争もない世界の実現を訴え続けている被爆地から選出された議員として、もっと踏み込んでほしい。

 気掛かりは、2項が実質的に死文化することだ。集団的自衛権が歯止めなく認められ、自衛隊が海外どこにでも出て行けるようにならないか懸念される。

 そうした問題があるだけに、安倍首相の前のめり姿勢は、ふに落ちない。自らの首相在任中に施行までたどり着きたいのであれば、私情にすぎない。国の根幹に関わる議論を拙速に進めていいはずはない。

 自民党内でも異論や批判が以前より聞かれるようになった。自由な議論は必要だろうが、心配なのは、首相がじっくり聞くかどうかだ。衆参両院で3分の2の議席を得ている今しかチャンスはないと捉えているとしたら、とんでもない。

 「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法のように国民の疑問や批判に向き合わず数の力で押し切る。そんな考えがないか、今までの政権運営から不安が消えない。どこをなぜ改正する必要があるか。その点をまず明確に示すべきだ。

(2017年7月14日朝刊掲載)

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