×

ニュース

[インサイド] 艦載機の岩国移転で厚木基地周辺 今後の運用 見えず疑念も

 米海軍厚木基地(神奈川県大和、綾瀬両市)から空母艦載機61機が米海兵隊岩国基地(岩国市)へ移転する計画を山口県や岩国市が容認したのを受け、移転を長年の「悲願」としてきた大和、綾瀬両市の住民たちの間で騒音軽減に期待が高まっている。一方、移転後の厚木基地の運用は明らかになっておらず、市民団体などには「両基地が使われるのでは」といった懐疑的な見方もくすぶる。(松本恭治)

 今月10日、厚木基地のほぼ真北に広がる大和市西鶴間地区。「艦載機が自宅アパートの真上を通過するたび、ものすごい爆音と震動に襲われる。移転は大歓迎です」。地区に住む主婦溝口里絵さん(39)は笑顔で話し、公園で遊ぶ5歳と2歳の娘を見やった。爆音が響くと足にしがみつき、必死に耳をふさぐ―。そんなわが子の姿に胸を痛めてきたという。

騒音予測示さず

 厚木基地の滑走路は南北に延び、その延長線上の飛行ルートの直下に西鶴間地区をはじめとする住宅密集地が広がる。基地南側の綾瀬市落合南の無職佐藤洋平さん(31)は「うるさい飛行機がいなくなるのはありがたい」。一方で「結局は騒音のたらい回し。岩国の人が気の毒だ」と複雑な思いも打ち明けた。

 厚木基地への艦載機の飛来は、空母ミッドウェーが米海軍横須賀基地(神奈川県横須賀市)に入港した1973年に始まった。点検や整備に伴う空母の入港期間は年200日前後。その間、訓練などによる離着陸や飛行時の甚大な騒音が基地周辺の住民を苦しませてきた。大和、綾瀬両市はほぼ全域が住宅防音工事の助成区域(第一種区域)に入っている。

 国は「艦載機の移転に伴い、厚木基地周辺の騒音は相当程度、軽減する」と説明している。住民に期待が広がる一方、地元自治体は冷静に受け止める。

 大和市基地対策課の河辺純一課長は「移転の期待は大きい」としつつ、「具体的に騒音被害がどのくらい軽減されるのか。国に説明を求めても回答がない」と歯切れは悪い。国は移転後の騒音予測を岩国基地周辺では公表しているが、厚木基地周辺については明らかにしていない。

「撤去情報ない」

 艦載機の移転後も、機体整備や給油などで厚木基地を引き続き利用するのではないか―。地元にはそんな懸念も根強い。防衛省は今月12日、硫黄島(東京)での陸上空母離着陸訓練(FCLP)の際は、岩国基地から直接向かい、厚木基地を利用しないと米軍が説明していることを大和、綾瀬両市など周辺自治体に伝えた。ただし他の訓練についての言及はなく、「移転効果」は未知数だ。

 「艦載機の関連施設が厚木基地から撤去されるとの情報はない。今後の基地対策は米軍の運用次第」。綾瀬市基地対策課の足立恭雄課長は漏らす。6月に市長と市議会議長の連名で国に提出した要望書では、移転後の厚木基地の運用などを速やかに明らかにするよう求めた。

 市民団体「厚木基地爆音防止期成同盟」の大波修二委員長(70)=大和市西鶴間=は「『静かになる』との国側の説明は眉唾もの。厚木も岩国もうるさい、という事態にならないか」と警戒する。艦載機部隊が岩国に移った後も団体の活動は継続し、厚木基地の運用を注視していく方針という。

米空母艦載機移転計画
 在日米軍再編で、空母ロナルド・レーガンの艦載機61機が米海軍厚木基地から米海兵隊岩国基地へ移転する計画。厚木基地周辺の騒音軽減などを目的に、日米両政府が2006年5月に合意し、今月11日に山口県や岩国市が移転容認を日本政府に伝えた。移転に伴い岩国基地の米軍機は約120機に倍増。米軍人や軍属、家族計約3800人も移り、岩国基地の米軍関係者の総数は1万人を超える見込み。

(2017年7月15日朝刊掲載)

年別アーカイブ