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社説・コラム

『書評』 「カウンターの向こうの8月6日」 被爆証言バー 遺言の著作 故冨恵さん

 広島市中区薬研堀のバーで被爆証言会を開き、肺がんのため37歳の若さで亡くなった冨恵洋次郎さんの著書「カウンターの向こうの8月6日」が20日、光文社から発売される。バーテンダーをしながら2006年に証言会を始めた頃の思いに加え、参加してくれた中から被爆者8人の生きざまとメッセージを収める。

 あえて本に残そうとしたのは被爆者の平均年齢が80歳を超えて「近い将来、被爆者という存在自体がいなくなる」という危機感からだった。「今書いておくと将来にわたって読んでもらえる」と願い、昨年秋に執筆を始めた。病室のベッドに横たわってもゲラ刷りにチェックを入れたという。

 自分史も兼ねる。広島県立広島商業高を卒業後、関東の大学に進むも中退。修業後、故郷に戻って開いたバーは「心の止まり木」を目指した。「酒を飲みながら聞くなんてふざけてる」と当初言われた証言会は、12年に店が火事になっても続けた。今年1月に病気が分かり、目の前が真っ暗になっても続けたのは、生きる糧を得ようとする「自分が聞きたいから」だったと明かしている。

 本は「どんなことがあっても、『証言者の会』は続ける」と結ぶ。その決意は仲間に受け継がれた。証言会は今後も続けられる見通しだ。1512円。(山本祐司)

(2017年7月17日朝刊掲載)

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