×

ニュース

ヒロシマの児童書出版 埼玉の作家 指田さん 描いた被爆者に手渡す

 児童文学作家の指田和さん(49)=埼玉県鴻巣市=が被爆者らの体験や平和への思いを記した「ヒロシマのいのち」を出版した。「少年少女の戦争体験を今の子どもたちに実感してもらいたい。平和のため自分に何ができるか、考えるきっかけに」。取り上げた被爆者たちを訪ねて新著を渡し、本に込めた願いを確かめ合った。

 指田さんはこれまでに、市内各所の慰霊碑に水をささげる「原爆献水」を続けた故宇根利枝さんについての絵本などを書いてきた。今回の本では、宇根さんら被爆者6人と原爆資料館の学芸員を紹介している。

 その一人、岩田守雄さん(83)=広島市西区=は11歳で爆心地から約1・8キロの舟入川口町(現中区)で被爆した。ボタンを入れた缶が鳴る音をいり豆と勘違いし、子ども同士で奪い合うほど空腹だった疎開生活。被爆死した母への思慕から一時はすさんだ心。そして中学の音楽教諭を務め上げた経験などがつづられる。

 3年前、戦前から自宅にあった亡き父の「被爆ピアノ」を、調律師の矢川光則さんに託した際の思いも明かされている。喉や腕の筋肉が細る難病を患い、自宅で闘病生活を送る岩田さんは「平和と核兵器廃絶への思いを自分で語るのは難しい。これからは本とピアノの音色が広めてくれる」と本を手に喜んでいた。

 児玉光雄さん(84)=南区=の壮絶な体験も書かれている。旧制広島一中(現国泰寺高)の校舎で被爆したが命拾いし、がんの手術を繰り返しながら被爆体験伝承者の育成に力を注ぐ。

 出版を待たず亡くなった人もいる。広島壊滅の一報を発したとされる岡ヨシエさんの証言にもページを割いたが、印刷中の5月に訃報が届いた。「ぜひとも手渡したかった」と指田さん。「『あの日』の一瞬だけでなく戦争が一人一人の人生に何をもたらすのかを見つめていきたい」と語る。A5判160ページ、1512円。文研出版刊。(金崎由美)

(2017年7月17日朝刊掲載)

年別アーカイブ