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社説・コラム

社説 辺野古差し止め提訴 対話でしか解決できぬ

 沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設を巡り、県と国が再び法廷で争う事態になった。

 翁長雄志(おなが・たけし)知事は、国が着手した移設工事の差し止めを求めて提訴、裁判が決着するまで工事を中断する仮処分も併せて申し立てた。

 国は工事を着実に進め、一日も早く移設完了を目指す方針に変わりなく、全面的に争うとみられる。訴訟合戦がこのまま続いていくのが心配だ。

 辺野古移設に関しては、前知事による現場海域の埋め立て承認を巡って、国と県はこれまで4件の訴訟で争ってきた。うち3件は和解したが、承認を取り消した翁長知事の処分について国が訴え、昨年12月に最高裁で県側敗訴の判決が確定した。

 国はこれを受け、今年4月に埋め立ての第1段階となる護岸工事を始めた。移設に関する法的な問題は決着済みとの立場だが、待ったをかけたい県が今回の提訴で問題視したのは工事の手続きにおける違法性である。

 漁業権のある海域で海底の岩石などを破砕しながら埋め立て工事をする場合、県の規則で知事の岩礁破砕許可が必要になっている。辺野古の工事では、前知事が出した許可が3月末で期限切れになっていた。にもかかわらず、国が知事の許可を得ずに工事を進めるのは違法だというのが県側の主張だ。

 国は地元漁協が漁業権などを放棄したことなどから、許可は必要ないとの立場だ。

 これに対し、県は「漁業権消滅に必要な知事の許可が出ておらず、漁業権は存在したままだ」と反論。放棄された漁業権の解釈が争点になるが、国は、自治体が条例や規則に従わせるために訴訟を起こせないとする最高裁での判例を盾に、訴えの却下を求めていく構えである。

 県からすれば、もし訴えが認められれば、岩礁破砕を許可せず、工事を阻止する狙いがあろう。だが、裁判には不適当と訴えが退けられれば、埋め立て工事にお墨付きが与えられるリスクもある。県側が窮地に追い込まれるのは避けられまい。

 それでも県が再び法廷闘争を選択したのは、安倍政権が沖縄の声に耳を傾けようとせず、「辺野古が唯一の解決策」と強引に移設を進めているからだ。

 翁長知事は提訴後の会見で、「県民の思いを置き去りにしたまま、新基地建設に突き進む国の姿勢があらためて問われる」と述べた。裁判を通じ、安倍政権の拙速で強権的な工事の進め方を世に問う考えだろう。

 国は、翁長知事への損害賠償請求も視野に入れて圧力を強める構えだというが、そうした対応こそが対立を深める要因になっていると認識すべきである。

 第三者による総務省の国地方係争処理委員会は昨年6月、「普天間飛行場の返還という共通目標の実現に向け、真摯(しんし)に協議し、納得できる結果を導く努力をすることが解決への最善の道だ」と国と県に提言した。ただ、国は県との協議に応じるそぶりも見せないまま、着工に踏み切った。

 もう一度、対話でしか解決できないという原点に立ち返るべきだ。法廷で手続きの法律論を突き詰めても、対立が際立つだけではないか。国は工事を中止し、県と向き合い、真摯に話し合うことを求めたい。

(2017年7月27日朝刊掲載)

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