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社説・コラム

『潮流』 「戦争」を読む夏

■ヒロシマ平和メディアセンター長 岩崎誠

 「水木しげる魂の漫画展」を岡山駅前の岡山シティミュージアムに見に行った。93歳で世を去った巨匠が残した原画が並ぶ中、圧倒的な迫力を放つのが「総員玉砕せよ!」(1973年)だ。戦争で左腕を失いながら命を拾った水木さんの実体験を投影する。

 大戦末期、南太平洋の激戦の島に残った部隊の500人が「捨て石」として命を捨てよと命じられ、生き残っても敵に突撃させられる―。本人によれば「90%は事実」であり、兵士の無残な姿は原画の筆遣いを見ると、ひときわ生々しく映る。作者自身、最も好きな作品だったらしい。

 水木さんのように戦争の悲惨さを肌で知る人がめっきり減った。取材などで出会う若い世代の反応を見る限り、あの戦争は自分と無縁の遠い出来事だという受け止めが広がっているのは間違いない。

 そもそも戦争とは何か。なぜ繰り返してはならないのか。かつてなら言うまでもなかったことから伝え直す時代かもしれない。

 中国新聞社が広島県や山口県東部の学校に届けた中高生向けの平和学習新聞「学ぼうヒロシマ」の編集でも、その点は少しばかり意識した。発行5年目。被爆者の証言を軸に原爆被害や核を巡る知識を伝える狙いは変わらないが、ことしは戦争と平和に関する本の紹介を、例年の倍の2ページに拡大した。漫画を含むさまざまな作品を通じ、あの時代に何があったかをできる限り追体験してほしいからだ。

 水木さんが戦争体験を描いたノンフィクションと漫画も計3作推薦した。「総員玉砕せよ!」はその1冊だ。

 「学ぼうヒロシマ」はことしも地域の多くの学校で、平和学習で使ってもらっている。口コミで知った首都圏などの中学、高校からの引き合いも相次ぐ。反響の大きさを心強く思うとともに、ブックガイドが中高生の夏休みの読書に生かされることを願う。

(2017年7月27日朝刊掲載)

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