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社説・コラム

社説 稲田防衛相辞任 事態収拾 とてもできぬ

 南スーダン派遣の国連平和維持活動(PKO)日報隠蔽(いんぺい)問題を巡り、稲田朋美防衛相が混乱を招いた責任を取り辞任した。8月3日にも行われる内閣改造の直前まで、事態を引きずった末のことだ。防衛事務次官と陸上幕僚長の引責辞任を受けての判断とも思え、重要閣僚としてお粗末と言うほかない。

 PKO日報問題に関する防衛省の特別防衛監察の結果を公表するのと同時の辞任にも、納得できない。監察結果を受けて国会の閉会中審査開催も調整が進められているのに、当の閣僚が説明責任を果たさないまま役目を放棄することになる。

 また朝鮮戦争の休戦協定調印記念日であるおとといは、北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)などを発射する恐れがあるとみて、日米韓は警戒を強めていた。結果的にミサイルは発射されなかったが、危機管理のセンスも欠いていよう。

 稲田氏にはこれまでも不適切な言動が相次ぎ、防衛相としての資質が疑われてきた。

 東京都議選では自民党候補の応援演説で「防衛省・自衛隊、防衛相、自民党としてもお願いしたい」と発言、自衛隊の政治利用と指摘され撤回した。自衛隊が九州北部の豪雨で救助活動に当たっているさなか、約1時間10分にわたり「政務」を理由に防衛省を離れていた。

 にもかかわらず、安倍晋三首相は不問に付して続投させてきた。それが一転、内閣支持率の急落で内閣改造までの更迭が不可避になった。政権内部の事情が優先されたのだろう。

 首相の任命責任が厳しく問われても仕方あるまい。更迭を先送りしてきた「判断ミス」は、「1強」ゆえのおごりや緩みから起きたのではないか。

 内閣改造直前の辞任は、けじめをつけたとは言い難い。自らに近い人物に対する甘い姿勢が安倍政権への不信、内閣支持率の低下につながっていることをよくよく認識すべきだ。

 稲田氏は特別防衛監察の結果の公表に当たり、国民に防衛省・自衛隊の情報公開に対する姿勢について疑念を抱かせたこと、日々任務に当たる隊員の士気を低下させかねないということなどを認め陳謝した。

 PKO日報問題については、複数の防衛省関係者は、陸自に保管していた事実を非公表とする方針を2月には稲田氏に報告し、了承を得ていたと明らかにした。陸自が防衛監察本部に提出した内部報告書には稲田氏が非公表の方針を了承していたことを記していたという。

 だが、稲田氏はきのうも「私自身報告を受けたという認識は今もなく、私のこれまでの一貫した情報公開への姿勢に照らせば、そうした報告があれば必ず公表するよう指導を行ったはずだ」と述べて譲らない。

 省内に対立の火種は残されたままであり、PKO日報問題はこれで終わりとはいかない。文民統制(シビリアンコントロール)が機能しているのかどうか問われる異常事態ではないか。防衛省がもともと抱えていた制服組と背広組のあつれきをさらけ出したともいえよう。

 内閣改造までの間、岸田文雄外相が防衛相を兼任することになったとはいえ、稲田氏は今後の閉会中審査に出席し、政治家として疑問に答えて事態の収拾に当たるべきだろう。

(2017年7月29日朝刊掲載)

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