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社説・コラム

社説 核のごみ処分マップ 「原発」の見直しが先だ

 長年の懸案である「トイレなきマンション」解決への一歩となるだろうか。原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場となり得る適地を示す「科学的特性マップ」を経済産業省が公表した。

 火山や活断層が周囲になく、輸送にも便利な適地は国土の約3割に当てはまる。中国5県では広島、岡山県の沿岸部などが含まれた。逆に、火山のある山陰や、石炭が埋蔵されている宇部、美祢市などは「不適」とされた。あくまでも可能性であり、まずは不適地を外しただけと考えた方が分かりやすい。

 放射能レベルの極めて高い核のごみは、使用済み核燃料の再処理により生じる。ガラスを混ぜて固めステンレス製容器に閉じ込めて30~50年保管する。

 国の計画では、最終処分は地下300メートルよりも深い岩盤に埋める「地層処分」をする。放射線が一定レベルに下がるまでの数万~10万年、人々の生活圏から隔離する。気が遠くなる年月だ。日本列島に人が住み始めたのが4万~5万年前というからSFの世界だろう。そんな先の人たちに、どうやって危険性などを伝えるかも難問だ。

 地層処分が進んでいる国はある。ドキュメント映画などで話題になったフィンランドの施設オンカロである。ただ隣国スウェーデンも含め、対象は原発の使用済み核燃料で、扱いがずっと難しい高レベル廃棄物を処分する日本とは状況が異なる。高レベルも処分するドイツや米国などは選定が難航している。

 候補地選びでは以前、交付金をちらつかせ、手を挙げる自治体を待っていた。しかし首長が前向きでも住民や議会の反対で頓挫した。安全性が保障されない限り当然かもしれない。

 しかも整備段階で100年程度の歳月と3兆円の費用がかかる。国が主導しなければ進まないだろうが、積極的に受け入れる自治体がそんなにあるとは思えない。先行きは不透明だ。

 だからといって放ってはおけない。核のごみは約2500本ある。海外に再処理を委託し、戻ってくる分などで千本以上増える。どこでどう処分するかは原発への賛否に関わらない課題である。マップ公表を機に、国民的な議論を呼び掛けたい。

 原子力政策の将来像をはっきりさせるのが先だろう。福島第1原発事故で、国民の多くは原発や原子力政策に批判的・懐疑的になった。しかし政府は、それを無視して再稼働を急いでいる。これでは最終処分地の必要性について理解は得られまい。

 破綻したとも指摘される「核燃料サイクル」をすぐやめて、使用済み核燃料を再処理しなければ、高レベル廃棄物は増えない。総量抑制になるはずだ。

 理解や科学的知見が深まるまで原則50年間は暫定保管し、その間30年をめどに処分地を決める▽「原子力ムラ」という利害関係者に任せず市民も参加した「国民会議」を設け、開かれた場で議論し合意形成を図る…。

 科学者の代表機関、日本学術会議が2015年に出した、そんな政策提言が参考になる。そうしてこそ、国民の望む方向で原子力政策の抜本的な見直しができるのではないか。

 候補地への経済支援を絡めた選定方法も再考すべきだ。過疎地への押し付けにつながり禍根を残しかねないからだ。

(2017年7月31日朝刊掲載)

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