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[インサイド] 「休日」の壁 復活見通せず 広島市の8・6登校日

市、例外規定を模索 国と協議 熱意問われる

 広島市立の多くの小中学校で、平和学習のため「原爆の日」の6日に設けられていた登校日が今夏からなくなる。教員の人事権限が広島県から市に丸ごと移ったのに伴い、本年度から6日を休日とする市条例が学校現場に適用され、国の法律との絡みで教員が出勤できなくなるからだ。市教委は従来通り、原爆の日に児童生徒が学校に集える方法を探るが、「8・6登校日」復活の見通しは立っていない。(松本大典)

 「学校が、今までと同じような(登校日の)扱いをできることが望ましい」。7月14日、松井一実市長は会見で、原爆の日に登校日を設けられるよう国と協議する考えを強調した。

 市内の全206小中学校のうち、昨年度は半数以上が設けた8・6登校日。この夏休みに登校日を設けたのは計150校だが、6日はゼロ。7割に当たる104校が4日に、それ以外も大半が6日前後に構える。

権限移譲が契機

 8・6登校日が見送られる契機となったのが、県から市への権限移譲。今年4月から、教員の給与負担などを県教委に代わって市教委が担っている。一方、市には土日祝日、年末年始のほか、独自に8月6日を休業日とする条例がある。原爆犠牲者の慰霊や恒久平和を祈る「平和記念日」との位置付けだ。権限移譲により、市立学校の教員もこの条例の適用を受けることになった。

 6日には、平和記念式典の運営などに休日出勤している市職員もいる。しかし「教員は現状では出勤できない」と市教委。教員の時間外勤務は、学校現場の仕事の特殊性を踏まえ、「教員の給与に関する特別措置法」で一般職員より限定的に運用されているからだ。土日以外の休日の勤務を原則命じることができない。6日のような市独自の休日には対応していないのだ。

 特措法に例外はある。校外などでの実習▽修学旅行などの学校行事▽職員会議▽非常災害や生徒指導など―の4項目に関する業務で、関係政令で定められている。しかし、「平和学習はどれにも該当しない」というのが文部科学省の見解だ。市は昨年、文科省と協議したが、解決策を見いだせなかった。

年内に結論方針

 もう一つの被爆地、長崎ではどうか。県内全ての小中学校で、原爆が落とされた9日の登校日が定着している。県教委は「8月9日を休日と定めていないので広島市のような問題は起こらない。各校の判断で当たり前のように続けている」と説明する。

 8・6登校日問題が報じられた6月中旬以降、広島市には市民から意見が寄せられた。件数は把握していないが、大半が従来通りの対応を望んだという。

 市教委はこうした声も踏まえ、来年以降の対応を再検討。平和学習が関係政令の例外規定に当てはまるような解釈を探る。市条例を改正し、小中学校の教員を適用外とする選択肢もあるが、市側は「条例の趣旨に照らせば適切ではない」と現時点では消極的だ。

 8・6登校日はこのまま消えてしまうのか。「広島にとって8月6日は特別な日。市民の思いに応えられるよう努力したい」と市教委は年内に結論を出すとする。文科省を説得する市側の熱意が問われている。

<広島市立小中学校の本年度の夏休みの登校日の状況>

登校日   小学校(全142校)  中学校(全64校)
8月2日   3校           1校
8月3日   4校           4校
8月4日   71校          33校
8月5日   3校           8校
8月7日   9校           5校
その他    3校           6校
計      93校          57校

原爆の日の登校日
 広島市教委によると、8月6日が土曜日だった2016年度は市立小141校のうち82校(58.2%)、市立中63校のうち32校(50.8%)が実施。平日だった14年度は市立小142校のうち123校(86.6%)、市立中64校のうち49校(76.6%)が実施した。教室などで市の平和記念式典のテレビ中継を見て原爆投下時刻の午前8時15分に黙とうするほか、被爆体験を聞いたり、平和学習の成果を発表したりしている。市教委は04年度から、6日を中心に平和集会を開くよう小中学校への通知で促してきた。

(2017年8月2日朝刊掲載)

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