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被服支廠 耐震調査始まる 広島の旧陸軍被爆建物 費用・工法 広島県、年度内に公表

 広島市内で最大級の被爆建物、旧陸軍被服支廠(ししょう)(南区)について、広島県は2日、活用策の検討に向けた耐震性調査を始めた。部分保存を含めて今後の在り方を探る基礎資料とする考え。概算の耐震化費用や工法を年度内に固め、公表する。県による現地調査は1996年以来、21年ぶり。(樋口浩二)

 被服支廠は陸軍兵の軍服や軍靴を製造していた。全13棟のうち現存の4棟は大正初期の建築で、国内最古級のコンクリート建造物となる。今回の調査は、うち1棟(現1号棟)のコンクリート製の柱や鉄筋、れんがをくりぬき、状態を分析。耐震性や強度を把握し、現実的な補強方法を4案程度示す。調査費は1700万円。

 この日は、調査を受託した車田建築設計事務所(中区)の技術者2人が1号棟の鉄扉などのサイズを計測した。現場責任者の西谷勇哉さん(35)は「被爆の歴史を刻み、構造的にも貴重な建物。慎重かつ正確に作業を進める」と話した。調査では、老朽化で目立つ雨漏りや建物沈下の対策も検討する。補強方法は、専門家の意見も聴く。

 被服支廠は、ロシアのエルミタージュ美術館分館誘致の構想が2006年に白紙となって以来、具体的な保存・活用策は検討されていなかった。

工費試算額が焦点 96年調査では21億円

 広島県が、21年ぶりに耐震性調査を始めた旧陸軍被服支廠。傷みが激しい施設の活用には耐震化が不可欠だが、1996年の調査では費用が21億円とされ、検討が進まなかった経緯がある。最新の知見を反映した今回の調査で費用がどう試算されるかが当面の焦点となる。

 現存4棟のうち県が3棟、国が1棟を所有。耐震化は多額の費用を前に足踏みしてきた。しかし、県は「従来より進歩した耐震工法で改めて活用に必要な工事費をはじきたい」(財産管理課)と、ようやく調査に踏み切った。

 背景には、市民団体などが現地ツアーを相次ぎ企画している現状がある。昨年度の見学者は960人と過去最多を更新。被爆者が高齢化して少なくなる中、「被爆建物の役割は増している」との認識は県庁内でも共有されている。

 県は、コンクリートやれんがなど部材の耐震性を調査。部分的な利用、建物丸ごとの利用など4案程度の活用例ごとに費用と補強方法をまとめる考えだ。

 2014年にコンクリートの劣化度調査に当たった広島大大学院の大久保孝昭教授(建築材料)は「近代の建築物としても希少。県は迅速に保存方針を決め、行動してほしい」と期待。一方で、建物の一部で沈下が進んでいると指摘し「基礎部分は耐震性の要。活用の障壁となる恐れもあり、今回の調査で原因や対策を突き詰めてほしい」と求めている。(樋口浩二)

<被服支廠の主な歴史>

1913年   軍服や軍靴の製造を開始
  45年   原爆投下で、被爆者の臨時救護所になる
  46年ごろ 広島高等師範学校(現広島大)が校舎の一部として利用
  52年   広島県が現存4棟のうち3棟を国から取得
  56年ごろ 民間企業が1~3号棟を倉庫として利用
        広島大が4号棟を学生寮として利用
  92年   県が現地で建物の強度を調査
  95年ごろ 倉庫の利用が中止され、学生寮も閉鎖
  96年   県が「瀬戸内海文化博物館」(仮称)としての活用を見据え、         耐震性調査。耐震化費用を21億円と試算
2000年   県がロシアのエルミタージュ美術館の分館の誘致候補地として         検討
  06年   県が分館誘致を断念

(2017年8月3日朝刊掲載)

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