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核禁条約の前進必要 平和宣言 松井市長各国に訴え 広島 被爆72年の式典

 米国による原爆投下から72年となった6日、広島市は平和記念公園(中区)で原爆死没者慰霊式・平和祈念式(平和記念式典)を営んだ。7月7日に国連で核兵器禁止条約が制定されて初の原爆の日。松井一実市長は平和宣言で条約に触れ「各国政府は、『核兵器のない世界』に向けた取り組みをさらに前進させなければならない」と訴えた。

 松井市長は、いかなる状況でも核兵器の使用や保有など関連行為を全面的に禁じる初の国際条約に、122カ国が賛同した経緯に言及。「核兵器廃絶に向かう明確な決意が示された」と強調した。条約に反発を続ける日本政府に対しては、憲法の前文を引き、平和主義の体現へ自国の加盟を含む同条約の締結を促進するよう要請。「核保有国と非核保有国の橋渡しに本気で取り組んでほしい」と求めた。

 また、72年前の惨状を思い起こすよう問い掛け、核兵器が存在し、使用をほのめかす政治指導者がいる限り、惨禍が繰り返されるとして警鐘を鳴らした。

 式典には被爆者や市民、政府関係者、各国大使たちが参列。午前8時に始まり、この1年に死亡が確認された5530人を書き記した広島の原爆死没者名簿3冊を松井市長と遺族代表が原爆慰霊碑に納めた。名簿は、113冊計30万8725人分になった。

 原爆投下時刻の8時15分に、遺族代表の井口小教諭木村陽己(ようこ)さん(40)=西区、こども代表の中筋小6年紀平鵬裕(ともひろ)君(12)=安佐南区=の突く「平和の鐘」の音を合図に、全員で黙とうをささげた。平和宣言に続き、こども代表の大芝小6年竹舛直柔(なおなり)君(11)=西区=と中筋小6年福永希実(のぞみ)さん(11)=安佐南区=が「平和への誓い」を発表。命の重みや相互理解を「粘り強く伝える」と訴えた。

 ことしは原爆資料館本館の免震工事で仮囲いが設けられているため、会場の座席数は昨年より3600席減り、7300席に縮小した。厚生労働省によると、被爆者健康手帳を持つ人は3月末時点で国内外に16万4621人、平均年齢は81・41歳。(岡田浩平)

〘平和宣言の骨子〙

■原爆はきのこ雲の下で罪のない多くの人びとにむごたらしい死をもたらし、放射線障害や健康不安など心身に深い傷を残し、差別や偏見を生じさせた。核兵器が存在し、使用をほのめかす為政者がいる限り、このような地獄に遭遇すると警鐘
■被爆体験に根差して「良心」へ問い掛け、為政者に対して「誠実」な対応を要請。若い人たちには、広島を訪れ、非核大使として友情の輪を広げてほしい
■核兵器の使用は人類として決して許されない行為。保有は、人類全体に危険を及ぼすための巨額な費用投入にすぎない
■国連で122カ国の賛同で核兵器禁止条約を採択し、核兵器廃絶に向かう明確な決意が示された。各国政府に「核兵器のない世界」に向けた取り組みの前進を要請
■特に日本政府には、憲法が掲げる平和主義を体現するためにも、条約の締結促進を目指して核保有国と非保有国との橋渡しに本気で取り組むよう訴え

【核兵器禁止条約】 核抑止力への依存 強く否定

 国連総会決議に基づく交渉会議で先月7日に制定された核兵器禁止条約は、使用や使用するという威嚇、保有、開発など核兵器に関する行為を全面的に禁止する。前文には被爆者の苦しみと、廃絶を訴えてきた努力を記し、会議では非保有122カ国が賛成した。9月20日に各国による署名手続きが始まり、50カ国の批准により発効する。

 全20条のうち第1条で「締約国はいかなる状況においても以下を実施しない」として、禁止事項を列挙。核兵器の使用に加え、威嚇も含め、核抑止力に頼る安全保障を強く否定する意味を持つ。それらに関与する支援、奨励、勧誘も禁じており、米国の「核の傘」に安全保障を頼る日本の政策は、締約国から見れば違反行為とされ得る。

 一方、核を持っていても、定められた期限までに国際機関の検証を受けて廃棄するなら、条約に加盟できるとの規定を設けた。条約の効力を高めるため、核保有国を早く巻き込みたい狙いがある。

 そのほか、締約国による、被爆者たちへの医療やリハビリ、心理的な支援の十分な提供を明記。条約発効1年以内に最初の締約国会議を開き、その後、定期的に条約の運用状況などを再検討する会議を持つと定めている。

 条約制定は、核軍縮の停滞を懸念した非保有国の有志が主導。核兵器の非人道性をテーマにした国際会議や、法的禁止の必要性を訴える決議を国連などで重ね、昨年12月の国連総会で交渉開始が決議された。ただ、安保環境の厳しさを理由に段階的な核軍縮を唱える米ロなど核保有と、足並みをそろえる日本などの同盟国も交渉に参加しなかった。

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