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hibakusha 死を決して無駄にしない 条約の意義 訴え続ける

非核の志 広がれ

 「hibakusha」の苦しみと努力を前文に刻む核兵器禁止条約が制定されて初めて迎えた「原爆の日」。核兵器保有国や日本は反発し、条約を推進する国々との溝は深まる。国内外で条約制定を訴えてきた広島の被爆者は条約の意義をかみしめ、一日も早い「核兵器なき世界」を願った。

 「物が言えず、生きた証しすらほとんど奪われた犠牲者が今、何を訴えたいのか。条約で核兵器をなくしてほしいということに尽きると思うんです」。被爆者の田中稔子さん(78)=広島市東区=は、中区にある広島女学院高女(現広島女学院中高)の慰霊碑の前で手を重ねた。

 碑に刻まれた生徒と教職員350人の中には、夫の母方の伯父で英語教諭だった田中彦七さん=当時(59)=の名もある。あの日、校舎にいた彦七さんをはじめ、妻と娘の一家4人が全滅。そのため稔子さんの夫は姓を改め、母方の「田中」を継いだ。稔子さんは2005年に亡くなった夫に代わり、碑に参り続ける。

 稔子さんも6歳で爆心地から約2・3キロで被爆した。国内外で証言活動を続け、今年6月には非政府組織(NGO)ピースボート(東京)の船旅で禁止条約交渉会議が開かれていた米ニューヨークの国連本部を訪問。関連行事で条約の実現を訴えた。「生きている私たちが声を上げないと」。犠牲者の声なき声を背に、各国に条約の批准と発効を求める。

 その条約に日本政府は背を向ける。安倍晋三首相は6日の平和記念式典のあいさつで条約に触れなかった。「条約は全人類の問題だ」。式典後、中区のホテルで首相が出席して開かれた「被爆者代表から要望を聞く会」。広島県被団協の坪井直理事長(92)は条約を支持するよう迫った。

 体調がすぐれず、車いすで訪れた。終了後、悔しそうに語った。「今回が最後と思ってきた。日本の条約参加を見届けたいが、無理かもしれない」

 「一筆一筆の力で条約を実効性あるものに」。炎天下の中区の繁華街。広島の被爆者7団体の被爆者たち25人が、買い物客らに署名を呼び掛けた。条約締結を全ての国に求める「ヒバクシャ国際署名」だ。

 広島で被爆し母と妹を奪われた日本被団協の岩佐幹三顧問(88)=千葉県船橋市=も街頭に立った。高齢のため6月に日本被団協の代表委員を退いた。滴る汗を拭い、力を込めた。「被爆者の死を、決して無駄にしない」(水川恭輔、明知隼二、城戸良彰)

(2017年8月7日朝刊掲載)

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