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核禁止条約 前進促す 被爆72年 広島平和宣言 首相「批准せず」明言

 米国により戦争で初めて核兵器が使われて72年の6日、広島市は平和記念公園(中区)で原爆死没者慰霊式・平和祈念式(平和記念式典)を営んだ。松井一実市長は平和宣言で、先月制定された核兵器禁止条約の締結促進へ、日本政府に自国の加盟も含めて「核保有国と非核保有国との橋渡しに本気で取り組んでほしい」と呼び掛けた。ただ、安倍晋三首相は参列後に市内で「署名、批准はしない」と初めて明言。被爆地の訴えに応えなかった。(岡田浩平)

 禁止条約が制定されて初の原爆の日。松井市長は宣言の冒頭で被爆の惨状を想起。核兵器を持ち、使用をちらつかせる政治指導者がいる限り悲劇が繰り返されかねないとし、保有は人類全体に危険を及ぼす巨額投資と批判した。

 非保有122カ国の賛成で、核兵器の使用や保有などを全面的に禁じる初の国際条約ができたのを、核兵器廃絶への明確な決意表明と評価。各国に一層の取り組みを促した。米国の「核の傘」の下にあって条約に反発する日本政府には憲法前文を引用して平和主義を体現するよう要請。直接的な表現は避けつつも被爆国自身の加盟を求めた。

 これに対し、安倍首相はあいさつで非核三原則の堅持などを述べたが、条約には言及しなかった。その後、中区のホテルでの記者会見で、安全保障などを背景に保有国が条約を支持していない現状を踏まえ「条約は保有国、非保有国の立場の隔たりを深め、核兵器のない世界の実現を遠ざける。わが国のアプローチと異なる」と主張した。非核三原則の法制化は「必要ない」と否定した。

 午前8時からの式典は、原爆資料館本館の免震工事で会場が狭まる中、約5万人が参列した。河野太郎外相、加藤勝信厚生労働相、国連の中満泉・軍縮担当上級代表(事務次長)が就任後初めて出席。海外代表は過去3番目に多い米ロなど80カ国と欧州連合(EU)、都道府県別の遺族代表は過去最少の36人だった。

 原爆投下時刻の8時15分から1分間、遺族代表とこども代表が「平和の鐘」を響かせる中、全員で黙とう。小学6年の代表2人は「平和への誓い」で、命の重みや相互理解の大切さを「粘り強く伝える」と声をそろえた。この1年に亡くなるなどした広島の被爆者5530人分の原爆死没者名簿が原爆慰霊碑に納められ、113冊計30万8725人になった。

 市内の市立小中学校では、教職員関連の法令の影響で例年の平和学習のための登校日が消えた。米軍が計画する米海兵隊岩国基地(岩国市)への空母艦載機の移転開始を国側が地元に「6日ごろ」と通告し、被爆地の反発を招く異例の「8・6」となった。

平和宣言の骨子

・原爆はきのこ雲の下で罪のない多くの人びとにむごたらしい死をもたらし、放射線障害や健康不安など心身に深い傷を残し、差別や偏見を生じさせた。核兵器が存在し、使用をほのめかす為政者がいる限り、このような地獄に遭遇すると警鐘
・被爆体験に根差して「良心」へ問い掛け、為政者に対して「誠実」な対応を要請。若い人たちには、広島を訪れ、非核大使として友情の輪を広げてほしい
・核兵器の使用は人類として決して許されない行為。保有は、人類全体に危険を及ぼすための巨額な費用投入にすぎない
・国連で122カ国の賛同で核兵器禁止条約を採択し、核兵器廃絶に向かう明確な決意が示された。各国政府に「核兵器のない世界」に向けた取り組みの前進を要請
・特に日本政府には、憲法が掲げる平和主義を体現するためにも、条約の締結促進を目指して核保有国と非保有国との橋渡しに本気で取り組むよう訴え

(2017年8月7日朝刊掲載)

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