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旧広島大理学部1号館 保存・活用 具体化足踏み 広島市 検討会 人選滞る

 広島市が広島大本部跡地(中区)に所有する被爆建物、旧理学部1号館を巡る動きが止まっている。昨年度決めた「平和教育・研究」「交流施設」という保存・活用方針の具体化へ、検討会を本年度早々に設置する計画だったが、メンバーを人選中などとして進展が見られない。出足の鈍さに被爆者からいら立ちの声が出ている。(渡辺裕明)

 市は昨年度、有識者、被爆者たち14人の懇談会を5回開催。被爆の実態を伝え、市と広島大が跡地で構想する「知の拠点」に沿う在り方について意見を聞いた。その結果、E字形の建物のうち、少なくとも正面の棟をI字形に残す案が了承された。改修費は概算で18億5千万円。必要に応じて、建物の保存範囲の拡大を検討する。

 また活用策は、幅広い世代向けに、広島ならではの平和に関する教育・研究や交流・活動の場を基本に、多目的に利用できるコミュニティースペースを備える複合施設を掲げた。2月に懇談会で合意後、市民の意見を募り、3月に保存・活用方針を作った。

 市はこれに基づき本年度、活用策の具体化に着手する考えで、当初予算に307万円を計上。懇談会の部会的な役割として有識者による検討会を設置し、5月の大型連休明けにも議論をスタートさせる算段だった。しかし、夏を迎えても動きがない。

 市都市機能調整部は「当初はすぐにでも動こうというのがあったが、いろいろな考えがあるので慎重に考えないといけない。どういう形にするか国際平和推進部など関係部局と調整している」と説明。主には内部調整と委員の人選に時間を要しているとみられる。

 ただ、建物の老朽化は待ったなしで進む。あちこちで窓ガラスが割れている。市の職員が除草など最低限の作業をしているが、中庭には雑草が生い茂り、樹木が建物を隠すほど枝葉を伸ばす。屋上にも雑草が生え、成長して低木のようにもなっている。

 中庭が子どもの頃の遊び場だったという元原爆資料館長で被爆者の原田浩さん(78)=安佐南区=は、7月末に現地を訪れ、「荒れ放題だ」と嘆く。

 「平和行政のために本当に必要な物だと思うなら、担当の国際平和推進部が本来はもっと動かないといけない」と求め、事業化に当たって課題となる財源確保の議論も進めるよう注文。市が現実的に確保できる予算規模をまずはじいたり、原爆ドーム保存のように寄付を募ったりするアイデアを提案している。

旧広島大理学部1号館
 1931年に広島文理科大本館として建設。鉄筋3階建て延べ約8500平方メートル。爆心地から約1・4キロで被爆し、外観を残して全焼した。戦後に補修され、49年の広島大開学で理学部1号館となった。東広島市への大学の統合移転に伴い91年に閉鎖。93年度に被爆建物に登録された。広島市は2013年4月に、国立大学財務・経営センターから建物と敷地0・6ヘクタールの無償譲渡を受けた。14年に市の調査で、震度6強の地震で倒壊の危険性があると判明した。

(2017年8月10日朝刊掲載)

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