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念願の条約 高揚感も 大会総括 実効性高める道険しく

 9日に幕を閉じた二つの原水爆禁止世界大会の会場は、被爆者の念願だった核兵器禁止条約を国連会議が7月に採択した喜びや高揚感に満ちていた。ともに「運動の大きな成果」と位置付け、世界で批准国を増やす活動に注力すると確認。一方で現実を冷静に見つめると、条約の実効性を高める道筋を描き出せたとは言い難い現状も浮かぶ。

 国連会議の参加国による条約案の投票結果は、賛成122、反対1、棄権1。圧倒的多数での可決となったが、核保有国は交渉にすら参加しなかった。安倍晋三首相は6日、広島市中区であった平和記念式典に参列後、「署名、批准はしない」と初めて明言した。

 両大会の会場からは「核保有国とその同盟国に条約を批准させるにはどうすればいいか」といった質問が何度も上がった。壇上の講演者の回答は、要約すれば「核兵器廃絶を願う世論を地道に喚起する」という言葉に尽きる。9月20日に始まる各国の条約への署名に向け、即効性のある対策は見当たらないのが現実だ。

 北朝鮮が核実験やミサイルの発射実験を繰り返し、「核兵器を巡る国際情勢はこの1年だけでも厳しさを増している」との指摘もある。核兵器を増強する考えを示すトランプ米大統領は8日、「世界がかつて見たことのない炎と激しい怒りに直面するだろう」と、核攻撃を示唆するような言葉で北朝鮮をけん制した。

 原発の是非や旧ソ連の核実験の正当性を巡って分裂した両大会は、政党色が濃く、仲間内の議論に終始している印象が強い。世論を喚起するのが最大の手法であるならば、党派を超えて外向きの発信力を高めねばならない。条約が採択された今だからこそ、核兵器を巡る世界情勢への危機感を共有し、大会の在り方を根本から見直す機会とするべきだ。(永山啓一)

(2017年8月10日朝刊掲載)

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