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『美術散歩』 焦土にも咲いた花の命

◎華道家 片桐功敦個展「Phantom Flowers」 14日まで。広島市中区橋本町、ギャラリー交差611

 72年前の「あの日」に熱線を受けて変形したガラス瓶に、キョウチクトウが生けてある。キョウチクトウといえば、原爆の焼け野原にいち早く咲いた花。その生命力が、瓶から伸びるように見える。

 片桐功敦(あつのぶ)さんは、堺市に続く「花道みささぎ流」の家元だ。伝統の生け花から現代美術のスタイルまで幅広く手掛ける。7月に広島市中区の本川小を訪れ、平和資料館内のガラス瓶を使って作品化した。やはり焦土に咲いた花のカンナと、有機体のようにねじ曲がった別のガラス瓶を組み合わせた作品も並ぶ。展示してあるのは、いずれも記録写真だ。

 2013年から福島県の沿岸部に長期滞在し、原発事故の放射能汚染で無人と化した地でも花を生けた。その記録写真も出展している。例えば、山と積まれた土のうの片隅で、地面に生けた1輪のチューリップがたたずむ。

 「利便性を追求した結果、人間が離れてしまった場所でも、動植物の生命は脈々と続く」と片桐さん。けなげなチューリップの存在は、この場で生き続けるというメッセージにも受け取れる。

 インスタレーションも1点ある。燃やしたキョウチクトウの炭を使って、生け花の影を描いた。原爆の熱線で焼き付いた「人影の石」から想を得たという。入場料500円。(上杉智己)

(2017年8月10日朝刊掲載)

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