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[インサイド] 戦没者慰霊碑 守り手は 民間建立 遺族減り維持・管理困難に

中国地方1457基 3分の1「不明」

 太平洋戦争などの戦没者をしのぶため遺族たちが各地に建立した民間慰霊碑の維持・管理が、高齢化や後継者不在で難しくなっている。厚生労働省などの調べで中国地方5県には1457基が点在。うち、少なくとも3分の1の碑で管理状況が分からなくなっている。戦後72年を経て戦災の記憶が薄れる中、慰霊碑にも継承の課題が重くのしかかる。(松本大典)

 三次市吉舎町敷地の艮(うしとら)神社。鎮守の森の一角にあった「慰霊社」が2015年に撤去された。土台の石垣が崩れかけていたためだ。日清、日露戦争から太平洋戦争までの戦没者の名が刻まれた石板だけが残る。

「肩の荷下りた」

 「市に補修費の支援を求めたら、町中心部の慰霊碑への合祀(ごうし)を勧められた」と地区遺族会の世話役だった天野則彦さん(74)。会員は老い、年1回の慰霊祭に集まるのも10人ほどになっていた。勧めに応じ97柱の魂を移す神事をし、位牌(いはい)を移転。慰霊社の撤去費26万円を支払うと長年の積立金はなくなり、地区遺族会は事実上消滅した。

 今も硫黄島で戦死した父と、9月で100歳になる同居の母への後ろめたさがあると天野さん。「それでも荒れて廃れるよりはいい。肩の荷が下りた」

 三次市遺族会連合会によると、10年前に1168人いた会員は現在870人。中でも戦没者の配偶者は131人から26人に減った。福島至事務局長(79)は「孫やひ孫となると『遺族』の実感は薄い。関係者だけでつないでいくのは困難」と訴える。

 こうした状況を踏まえ、厚労省は14年、民間慰霊碑について初の全国調査を実施。中国5県では計1283基を把握した。その後、広島、岡山両県がさらに計174基を確認した。調査では半数以上の702基が「管理良好」だった一方、533基の管理状況が「不明」、48基が「管理不良」と判明した。

補助利用は2件

 「どこも碑を守ることに苦慮している」。広島市遺族会の山田義春会長(80)=安佐北区=も実感する。同会は戦後70年を機に地域の碑のリストをまとめている。建てた人が亡くなって管理者がはっきりしない碑もあり、「倒壊して事故が起きれば、誰も責任が取れない」と懸念する。

 厚労省は16年度、移設や埋設にかかる経費の半額を補助する制度を創設。しかし、管理者が不明で倒壊の危険があり、かつ自治体が介入するケースに補助対象を限定した。これまで利用したのは、熊本県玉名市と石川県小松市の2件にとどまる。

 厚労省社会・援護局事業課は「補助制度をより使いやすくしたい」とする一方、「あくまで民間の慰霊碑。できる限り地域で維持管理してもらうのが基本」と強調する。

 公有地に民間の碑が立っている場合、周辺の清掃を自治体が担う例はあるが、自治体が維持管理の支援に積極的に乗り出す向きはない。三次市のある市議は「慰霊碑の宗教的性格を意識し、政教分離の観点から役所が関わりにくい面もあるのでは」とみる。

民間の戦没者慰霊碑
 日清戦争や日露戦争、太平洋戦争などの戦没者をしのぶため、遺族たちが明治から昭和にかけて学校や寺社、公園などの一角に建立。遺族会などが管理し、慰霊や清掃などの行事を続けてきた。厚生労働省が2014年に実施した初の調査では全国に1万3174基あり、管理状況不明が5386基(40・9%)、管理不良は734基(5・6%)。中国地方5県は計1283基。その後、広島、岡山両県がさらに計174基を確認した。両県の追加把握分を含めた5県別の内訳は、広島477基▽山口226基▽岡山338基▽島根327基▽鳥取89基。

(2017年8月15日朝刊掲載)

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