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連載・特集

『生きて』 医師・広島大名誉教授 鎌田七男さん(1937年~) <1> 顧みて

被爆者に教えられ歩む

 鎌田七男さん(80)は、原爆の非人道性を医療・研究から立証してきた。「広島の地だからできる、しなければならない」。半世紀を超えて実践する医学者の半生を尋ねる。

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 ヒトの遺伝情報を持つ染色体から被爆の実態に迫る。僕の取り組みは、広島大原爆放射能医学研究所(現放射線医科学研究所)の「臨床第一研究部門」の入局に始まります。開所の翌1962年で、医局は広島市南区の霞キャンパスにあった旧陸軍兵器補給廠(しょう)の赤れんがの建物でした。

 慢性骨髄性白血病の細胞に染色体異常があることが60年に米国で見つかった。では、原爆被爆者はどうなのか。染色体分析を朝長正允(ともなが・まさのぶ)教授から研究テーマとして示された。先生は、「長崎の鐘」(49年刊)を著して亡くなった永井隆博士の主治医であり、旧長崎医科大の後輩でした。

 「被爆内科」で日中は診療に努め、腕や骨髄から採取した染色体を深夜に調べる。細胞を培養して一個ずつスライドに貼り付けて顕微鏡写真に撮り、分裂を確かめた。そうして放射線被曝(ひばく)による染色体異常を突き止めたわけです。

 さらに、2代目所長だった志水清さんの「疫学・社会医学部門」と、爆心地から500メートル内での奇跡的な生存が確認された78人の症状を調べます。72年から今日まで続け、重複がんや髄膜腫の発症も明らかにした。苦難に負けない生き方も教えられました。

 原爆は人間を遺伝子まで傷つける。1万7655例の染色体を原医研の退職までに分析し、白血病で4タイプの融合遺伝子、異常の構造を解明しました。早期発見の方法や、90年代から登場する治療薬につながったのは、再びあってはならない被爆者の病態から得られた知見です。

 広島原爆被爆者援護事業団理事長を16年間務め、原爆養護ホーム3園の介護向上にも取り組んだ。この4月からは本郷中央病院(三原市)に常勤し、近隣被爆者の診療や在外の原爆症認定申請の相談にも当たっています。被爆者と共に歩む。年を重ねても僕にとっては自然な流れです。幼かった頃の引き揚げ体験ともつながっていると思いますね。(この連載は特別編集委員・西本雅実が担当します)

(2017年7月25日朝刊掲載)

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