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社説・コラム

社説 日米2プラス2 防衛力の増強どこまで

 緊迫化する北朝鮮情勢を契機に、日本は米国と軍事的一体化を深めていくつもりだろうか。

 日米の外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)があった。島根県や広島県などの上空を通過させての米領グアム沖への弾道ミサイル発射計画を公表した北朝鮮を、共同文書で強く非難している。同時に、同盟強化によって対抗する姿勢を明確にした。

 その一環として政府は、迎撃ミサイルの「地上型イージス」を導入し、防衛能力を強化するという。集団的自衛権行使を容認した安全保障法制整備を踏まえ、自衛隊の役割拡大を表明したのだろうが、日米の連携強化を理由に、どこまで増強しようというのか。

 巨額の予算が必要な上、かえって日本への攻撃を招く恐れもある。国会での議論もないまま進めていいはずがない。

 日米2プラス2の開催は2年4カ月ぶりで、トランプ政権になってからは初めてである。

 いわゆる「核の傘」提供を米国に確認してもいるが、北朝鮮への対応が主眼のようだ。「断固とした措置」を取るよう、中国にも促している。

 だが外交面よりも軍事的な対応を打ち出した共同文書といえる。それに沿う形で日本が導入を示した「地上型イージス」はイージス艦搭載の迎撃ミサイルを地上配備し、大気圏外で弾道ミサイルを迎撃する新装備だ。

 防護範囲は広がるが、1基約800億円かかり、用地取得費を含めばさらにかさむ。陸と海での監視で防衛体制が厚みを増すと、防衛省は強調する。だが隊員の技術習得にも時間を要するため早期運用は見通せない。

 また宇宙空間やサイバー分野でも一層協力していく。自衛隊に「宇宙部隊」を設け、日米が弾道ミサイルの警戒監視に使う人工衛星を守るという。

 小野寺五典防衛相は「専守防衛の中で『盾』の役割を万全にする」と言うが、その危うさを自覚しているのだろうか。米国に言われるがまま、自衛隊と米軍の連携や一体化へ向かい、自衛隊による米軍の肩代わりがさらに進むようにも映る。

 グアム沖へのミサイル発射について、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は米国の出方を見守るとして留保した。今こそ対話を通して衝突回避の糸口を探るべきではないのか。中国やロシアも巻き込んで、北朝鮮に向き合い、迫る時だろう。

 にもかかわらず日米が軍事的一体化を示せば、むしろ北朝鮮を刺激し、硬化させかねない。射程内にある日本にとって脅威が高まるだけだ。中国を含め地域の緊張を高める恐れもある。

 安倍晋三首相は内閣改造時、小野寺防衛相に「防衛計画の大綱」見直しや、次期中期防衛力整備計画の策定を指示した。防衛政策を抜本的に変える意向らしい。北朝鮮情勢を「好機」として、自衛隊の装備増強をやみくもに進めようというのか。

 きのう中四国地方で全国瞬時警報システム(Jアラート)による情報伝達訓練があった。国民にも不安が広がっており、北朝鮮のミサイル対応が急務であるのは間違いない。

 しかし拙速は危険を高めかねない。被爆地の私たちとしては朝鮮半島の非核化という目標は譲れない。国民への説明や国会で議論を尽くすことが先だ。

(2017年8月19日朝刊掲載)

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