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「許せぬ」被爆者ら憤り 原爆慰霊碑に塗料 逮捕

 被爆地広島のシンボルが、また汚された。21日、赤い塗料が吹き付けられた平和記念公園(広島市中区)の原爆慰霊碑。「許せない」。訪れた市民も観光客も憤る。ことし1月にも、同様の事件があったばかり。警備体制の見直しを求める声も出ている。

 大勢の目前での暴挙。目撃した東区の主婦中野三千枝さん(74)は「柵を越え、かばんからスプレーを出した。『どうしてそんなことするの』ととがめたけど、黙って歩いて逃げていった」と証言する。

 「警備員が『あいつがスプレーをかけた』といいながら、慌てて後を追った」と神奈川県伊勢原市の会社役員野沢良さん(33)。元安橋近くのカフェの新宅俊哉店長(28)は「容疑者はふらふらしながら逃げていた。車道の真ん中で警察官に取り押さえられた。抵抗するそぶりはなかった」と説明した。

 英国から訪れたノラ・フォガーティさん(25)は「野蛮なことが起こって悲しい」。大阪府泉佐野市の会社員松浪崇史さん(35)は「石碑ではなく、自分の中のもやもやをぶつけただけなのでは」とあきれていた。

 「被爆者の思いを踏みにじる行為だ」と県被団協(坪井直理事長)の池田精子副理事長(80)。もう一つの県被団協(金子一士理事長)の吉岡幸雄副理事長(83)も「多くの犠牲者の魂が眠る場所。許せない」と怒りをあらわにした。

 ことし1月にも、慰霊碑は金色の塗料で汚された。慰霊碑の四方には警報センサーを設け、原爆資料館から慰霊碑に向けた防犯カメラが2台ある。

 西区の無職三島宏行さん(72)は「さらに対策がいる。ただ、警備員の配置や柵の増設は、平和の象徴にそぐわない気もする」と戸惑う。中区の旅行業藤岡倫子さん(42)も「自由に慰霊できる空間だからこそ意味がある」と話す。

 松井一実市長は「ヒロシマの心を発信するため、市民が大切にしている神聖な場。どんな意図があろうとも許されない」と非難。警備については「祈りを妨げてはならない」との理由から現状維持の考えを示した。

<平和記念公園で起きた主な器物損壊>
1965年 2月 原爆慰霊碑の碑文に赤い泥絵の具
  76・ 8  原爆慰霊碑の碑文下に「トルーマン大統領」と彫った石板が張り付けられる
  84・ 3  動員学徒慰霊塔の千羽鶴に無職の男が放火。約10万羽が燃える
  97・ 7  「原爆犠牲国民学校教師と子どもの碑」の碑文の一部が削られる
  99・10  「韓国人原爆犠牲者慰霊碑」の台座にペンキがかけられる
2001・11  レストハウスや元安橋欄干などに落書き
  01・12  原爆ドーム外壁に落書き
  02・ 2  「原爆の子の像」前の折り鶴約5万羽が焼失
  02・ 3  原爆慰霊碑の碑文に赤茶色の塗料がかけられる
  03・ 8  関西学院大の学生が「原爆の子の像」の折り鶴に放火。約14万羽が焼ける
  05・ 7  政治結社構成員が原爆慰霊碑の碑文を削る
  06・ 1  平和の灯などに塗料で落書き
  10・ 3  被爆桜の苗木が盗まれる
  12・ 1  原爆慰霊碑の碑文に金色の塗料が吹き付けられる

(2012年9月22日朝刊掲載)

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