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社説・コラム

社説 トランプ米政権の混迷 世界の緊張 高めないか

 迷走を続ける米国のトランプ政権が一層混迷を深めている。高官の更迭が相次ぐホワイトハウスで、今度は最側近のバノン首席戦略官兼上級顧問が解任された。

 昨年の大統領選でトランプ氏を勝利させた立役者だ。排外主義的な保守強硬派であり、政権発足後は、入国禁止令やパリ協定離脱を主導した。

 「影の大統領」とも呼ばれたバノン氏の解任で、選挙戦から支えてきた側近は、親族を除いてほぼ一掃されたことになる。バノン氏がけん引してきた「米国第一主義」を抜け出し、国際協調や国内融和を重視した政策にかじを切れるのか。政権は岐路に立っていると言えよう。

 今回の解任には、国内問題を沈静化させたい意図があるようだ。南部バージニア州で、白人至上主義者らと反対派が衝突した事件への対応を巡り、政権が批判にさらされているからだ。

 事件は10日ほど前に起きた。南北戦争で奴隷制存続を訴えた南軍司令官の銅像を撤去する計画に抵抗しようと集まった白人至上主義者たちと、人種差別に反対する人のグループが衝突した。反対派に車が突入して女性が死亡し、多くが負傷した。既に白人至上主義者とみられる男が殺人容疑で拘束されている。

 にもかかわらず、トランプ氏は双方に非があるという趣旨の発言をした。白人至上主義者の肩を持つような態度を取ったとして、抗議が殺到するのは当然だろう。

 発言への抗議行動は全土に及び、国民を分断している。大企業経営者らで構成されたトランプ氏の二つの助言組織は、メンバーの抗議による辞任が相次ぎ、解散に追い込まれた。著名なスポーツ選手や芸術家たちはトランプ氏と会うことを拒否している。人種差別容認発言に影響を与えたとされるバノン氏の解任で収まる話ではあるまい。

 発言は、大統領選での支持層へのアピールといわれる。だが人種差別は到底許されず、国際社会が取り組むテロ対策にもマイナスにしか働かないだろう。

 世界中からの移民たちがつくってきた米国は、民族や宗教など多様性を重んじる国のはずだ。トランプ氏はそのリーダーであることを自覚し、態度を改めるべきだ。

 気掛かりなことは、ほかにもある。バノン氏は国際問題への関与には消極的で、シリアやアフガニスタンへの空爆に反対した。核実験やミサイル発射で挑発を続ける北朝鮮に対しても、武力行使を否定してきた。今後は、軍出身のケリー大統領首席補佐官らが政策立案の中心となる。他国への軍事介入が加速するようなら認められない。

 トランプ氏はきのう、テロ組織の掃討を目指して2001年から派遣しているアフガニスタン駐留米軍について、早期撤退を否定した。増派計画も承認したと伝えられる。

 とりわけ心配なのが、対北朝鮮政策である。言葉による応酬が激しさを増し、北朝鮮が米領グアム周辺への弾道ミサイル発射計画を公表するなどただでさえ緊張をはらむ両国関係をさらに悪化させてはならない。

 政権発足から200日余り。側近が一掃された今こそ再出発のチャンスかもしれない。国際協調や国内融和を重んじる政策への転換を求めたい。

(2017年8月23日朝刊掲載)

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