×

社説・コラム

『潮流』 高校生への横やり

■論説副主幹 宮崎智三

 「被爆から71年、今立ち上がらなければ人々は被爆者の声に無関心であり続けるだろう」。昨年8月、ジュネーブの国連欧州本部であった軍縮会議の本会議。日本から出席した高校生平和大使がスピーチし、各国の大使にそう呼び掛けた。

 日本政府代表の席を使わせるなど外務省もサポートした。原爆を投下した米国の大統領として初めて、オバマ氏が広島を訪れた余韻も後押ししたのだろう。

 今年はどうか。2014年から3年続いていた平和大使のスピーチは実現しなかった。横やりが一部の国から入ったなどと外務省は説明したそうだ。

 「加害の事実を忘れてはいけない、戦争を始めたのはどこの国か」。平和大使に昨年、そうくぎを刺した中国だろうか。それとも、トランプ大統領に代わって核軍縮に背を向ける米国か。どこの国であれ、日本政府が、主張をそのまま受け入れたのであれば、情けない限りである。

 もっとも今、核兵器を持つ国は追い詰められたように感じているのかもしれない。核兵器禁止条約が先月国連で採択された。持っていてはいけない兵器だという認識は、さらに国際社会に広まっていくはずだ。

 平和大使らを中心に集めた署名の数は今年、過去最多となった。うっすらではあるが、核兵器のない世界への道筋が見えてきた―。そんな期待感の高まりからか、逆に、今までになく緊迫した朝鮮半島情勢への危機感のせいだろうか。

 日本政府には、核兵器ゼロに向けた国際社会の盛り上がりが見えているのか。核を持つ国と持たない国との橋渡し役を自認するなら行動で示すべきである。

 日ごろは、軍縮教育に力を入れていることをアピールしている外務省。平和大使を担うような若者たちではなく、まずは、政治家や官僚たちにこそ、教育が必要ではないか。

(2017年8月26日朝刊掲載)

年別アーカイブ