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社説・コラム

社説 エネルギー基本計画 問題先送りは許されぬ

 国のエネルギー政策の指針となる「エネルギー基本計画」の見直し議論を、経済産業省の有識者会議が始めた。

 2030年時点で、どんなエネルギーを使い賄っていくのかについて、14年に決定した現行計画を、環境変化などを踏まえて再検討する。

 国民の関心の高い原発政策を含めて行方が注目されるが、世耕弘成経済産業相は見直し論議の初会合で「基本的に骨格は変える段階にない」と語った。抜本的な議論を封印するような発言だ。これでは小手先の改定にとどまりかねない。課題に目をつむり本腰を入れて取り組もうとしない姿勢に疑問を感じる。

 というのも、現行の基本計画そのものが、さまざまな矛盾を抱えているからだ。

 とりわけ問題なのは原発政策である。東京電力福島第1原発の事故を受け、現行計画に「震災前のエネルギー戦略は白紙から見直し、原発依存度を可能な限り低減する」とうたった。

 その一方で、原発をエネルギー需給の安定性に寄与する「重要なベースロード電源」と位置づけた。新規制基準の下、安全が確認された原発を着実に再稼働させていく方針も明記した。

 それを基に定めた30年度の電源構成では、原発の比率は20~22%とした。これは東電福島第2原発を含めた既存の原発の大半を再稼働させ、原則で最長40年をルールとする運転期間を延長しなければ、実現できない数字である。

 にもかかわらず、世耕経産相は、今回の見直しでは「(現行計画の)目標をどう達成するのか議論する」と既定路線を踏襲する考えを示す。老朽化が進む原発も含めて再稼働を加速させるつもりなのか。原発依存度の低減にも安全性向上にも、つながらないのは明らかだ。

 3年間を振り返れば、原子力規制委員会の審査を経て、5基の原発が再稼働した。ただ、数々の世論調査では依然、脱原発を求める意見が過半を占め、電力業界の思うように再稼働は進んでいない。

 逆風は世論だけではない。電力業界と政府は一貫して「原発は火力発電や再生可能エネルギーより割安だ」とアピールしてきた。だが、福島原発事故を受けた規制強化で安全対策費が膨らみ、もはや原発が安価だという前提は崩れつつある。

 原発から出る高レベル放射性廃棄物の処分方法もまだめどが立っていない。原発のコスト高騰を受け、米国やフランスを含めた先進国を中心に原発利用の見直しや建設を取りやめる動きが目立っている。

 世界に目を転じれば、原発とは逆に、再生可能エネルギーが急拡大し、割高とされてきたコストも下がり続けている。パリ協定の発効を受け、石炭火力を全廃する国も相次ぐ。

 日本では30年の電源構成目標で、再生可能エネルギーは「可能な限り拡大する」としたが、22~24%と低めに抑えられた。一方、石炭火力は26%と高めだ。エネルギー計画の中身が世界の潮流から取り残されつつあるのは否定できまい。

 原発をベースロード電源にすることに民意が反映されているとは言い難い。エネルギーの需給構造を変革する時ではないか。広く国民的な議論を深め、進路を選択する必要がある。

(2017年8月27日朝刊掲載)

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