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社説・コラム

社説 北朝鮮ミサイル日本通過 安全脅かす暴挙許せぬ

 どこまで挑発をエスカレートさせるつもりだろうか。

 北朝鮮が発射した弾道ミサイルがきのう早朝、北海道の上空を通過し、襟裳岬の東約1180キロの太平洋上に落下した。

 今のところ船舶や人的な被害は確認されていない。しかし、事前通告もなく、人々の頭上に兵器を飛ばす行為は、安全を脅かす軽率な暴挙である。断じて許すことはできない。

 発射されたのは新型中距離ミサイル「火星12」とみられる。北朝鮮の主張では、米国のハワイやアラスカが射程に入り、核弾頭の搭載も可能という。31日まで続けられる予定の米国と韓国による合同軍事演習をけん制するのが狙いなのだろう。

 今月に入って米朝は、互いに武力行使をにじませ、強い言葉による応酬を繰り返してきた。北朝鮮は、日本の島根、広島、高知県の上空を通過し、米領グアム沖に向け「火星12」4発を発射する計画まで打ち出した。

 トランプ政権が平和的解決を促す柔軟姿勢を見せたため、金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長も「米国の行動をもう少し見守る」と当面の発射見送りを示唆していた。緊張がやや緩んだかに見え、対話の可能性も期待されたタイミングだけに、今回の挑発の衝撃は大きい。

 ただ、グアムの方角ではなく、北東方向に発射したのは、米韓の演習へ対抗しつつ過度に米国を刺激すまいとの意図があるのかもしれない。

 北朝鮮では、9月9日の建国記念日、10月10日の朝鮮労働党創建記念日と重要な節目が続く。国威発揚のため、さらなる挑発に出るかもしれない。韓国の国家情報院は北朝鮮北東部で核実験の準備が完了した状態になっているとも報告している。

 日本政府はきのう、ミサイル発射を受けて全国瞬時警報システム(Jアラート)で緊急速報し、北海道や東北、北関東などの住民に避難を促した。

 安倍晋三首相は記者団に対し「発射直後からミサイルの動きを完全に把握しており、国民の生命を守るために万全の態勢を取ってきた」と述べた。だがミサイルが日本上空に到達するまでの時間は極めて短い。国民一人一人が取り得る対応の限界が浮き彫りになったといえよう。

 心配なのは、そうした不安から国内でも、ミサイル防衛など防衛費増額などを求める声が高まりかねないことだ。

 安倍首相は「これまでにない深刻かつ重大な脅威」と強調したが、北朝鮮ミサイルが上空を通過したのは今回で5回目である。事態を打開するには、これ以上の発射をやめさせる外交努力しかあるまい。

 7月の2回の大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射を受け、国連安全保障理事会は、北朝鮮の石炭や海産物の輸出を全面禁止とする制裁決議を全会一致で採択している。制裁に即効性はないかもしれない。それでも資金源を断たれる北朝鮮には、じわじわと打撃となろう。

 国連安保理はきょう緊急会合を開く方向で調整している。さらに厳しい追加制裁を求める声も出よう。国際社会が連携し、さらなる包囲網を築きたい。

 北朝鮮の挑発に振り回され、冷静さを失ってはならない。武力に頼らずに封じ込めを続けながら、核やミサイルを手放させる外交努力を続けるべきだ。

(2017年8月30日朝刊掲載)

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