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社説・コラム

天風録 『真っ赤な背中の少年』

 背中一面が血で真っ赤に染まり、顔をゆがめる少年―。原爆の熱線で皮膚が焼けただれた写真から核兵器の残忍さが生々しく伝わってくる。被写体となった長崎の谷口稜曄(すみてる)さんがきのう亡くなった。被爆者の「顔」としての役割を背負い、原水禁運動に生涯をささげた▲郵便局員だった16歳の時、長崎市内で配達中に被爆した。背中に大やけどを負い、1年9カ月もうつぶせのまま、生死の境をさまよった。闘病中の姿を米占領軍の調査団が撮影していた▲そのフィルムが1970年に見つかるまで、被爆体験を語ることはほとんどなかったが、一枚の写真が決心させた。生かされた者の使命として原爆がもたらしたむごさと苦しみを語り続けていかなければ▲目をそらさないで見てほしい…。7年前、国連本部での核拡散防止条約(NPT)再検討会議でも赤い背中の写真を掲げて呼び掛けた。核兵器は絶滅の兵器で、人間とは共存できないと▲近年は入退院を繰り返し、核兵器禁止条約が先月、国連で採択された際も病床から「一日も早く核兵器をなくす努力をしてほしい」と訴えた。命懸けで声を振り絞り続けた被爆者の苦悩から目をそらすことがあってはならない。

(2017年8月31日朝刊掲載)

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