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小中生の広島派遣 増加 首都圏など各地の平和行政 戦争体験継承に一役

 戦後72年を経て、首都圏など各地の自治体が平和行政の一環で、小中学生を中心に若い世代を被爆地広島に派遣する取り組みが増えている。戦争体験を語り継ぐ機会が減る中、戦災を象徴する原爆を学んでもらい、体験を地域に広げていく狙いがある。定着した学校単位のヒロシマ修学旅行とは、また別の意味がある。(桑島美帆)

 東京都羽村市は隣接する青梅市と連携し、8月4~6日に中学生25人を「ピースメッセンジャー」として広島市に派遣した。原爆資料館などに加え、南区の旧陸軍被服支廠(ししょう)の内部を見学した。当時、広島二中(現観音高)2年だった田渕広和さん(85)ら被爆者6人を招いた交流会も開いた。広島の中学生も加わった。

 「被爆者の話は、写真で見るより生々しくて心に響いた」と羽村第1中2年の古川佳愛さん(13)。青梅市の第1中2年和田美鈴さん(14)も「普段から思いやりを大切にして身近な平和を目指したい」と語った。

地域で報告会

 子どもたち自身が平和の意味を感じ取るだけではない。「次世代を担う10代が学んだことを市民に報告することも有意義だ」と羽村市企画政策課は説明する。2014年度に単独で広島への派遣を始め、15年に青梅市に呼び掛けて規模を拡大した。事業費450万円のうち360万円は多摩地区26市の市長会の助成金から賄ったという。

 神奈川県大和市は戦後70年の節目の15年から派遣を始めた。3回目のことしは公募した小中学生6人が8月5~7日に平和記念公園や被爆樹木を巡り、6日夜は灯籠流しを体験した。同市国際・男女共同参画課は「参加した生徒が、学校の朝礼や地域の集まりで戦争について語る役割も担う」と手応えを感じている。

5年で1.5倍に

 ことし新たに派遣に取り組んだのは新潟県柏崎市。中3の12人が平和記念式典に参列した。全員が感想文にまとめ、代表2人が11月に市内の中2全員が参加する「被爆体験者講演会」で発表する。経費約100万円は全額市が負担し、来年度以降も続ける。市総務課は「広島は遠いので移動時間が多く、実質的には1日しか使えないが、原爆の日にしか感じられないものは大きい」と言う。

 昨年広島を訪れた修学旅行生は32万3千人で、前年より3・6%減った。一方で原爆資料館学芸課によると、ことし4~8月に平和学習のために代表を派遣した自治体数は126件。遠隔地の北海道北広島市なども含まれる。前年同時期を6件上回り、13年度と比べると約1・5倍に増えた。

 資料館の加藤秀一副館長は「広島の長年の蓄積が、それぞれ地域の空襲や戦争体験の継承に活用されているのだろう。多くの自治体に事業を継続してほしい」と期待している。

(2017年9月4日朝刊掲載)

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