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「疎開」の寺で平和学習 三次の善徳寺 小中高生向け「サマースクール」

 浄土真宗本願寺派の善徳寺(三次市)は毎夏、広島県内の小中学生や高校生たちを対象に開く「サマースクール」のプログラムに、平和学習を盛り込んでいる。講師は、第2次大戦中に同寺へ学童疎開し、後に「原爆孤児」となった被爆者の男性。つらい体験を直接聞いて、平和な世の中に生きていることの尊さを実感してもらうのが狙いだ。(門脇正樹)

 「日本が戦争をしていたとき、おじさんはみんなと同じ年頃。このお寺には、全部で45人の子どもが疎開していました」。8月27日の昼下がり。広島市西区の川本省三さん(83)は、かつて寝泊まりしていた善徳寺の本堂で、サマースクールに参加した約40人に、淡々と語り掛けた。

一人で生き抜く

 袋町国民学校(現袋町小、広島市中区)6年になってすぐ、同級生や後輩と一緒に同寺へ疎開。原爆が投下された8月6日は、畑の開墾作業をしていて、広島市の方角に白い煙を見たという。自身は3日後に広島へ戻り、入市被爆。両親と、きょうだい4人は原爆の犠牲になった。

 その後は、国鉄(現JR)広島駅前で鉄くずを集めて日銭を稼いだ。時には捨てられた新聞紙を喉に押し込んで飢えをしのいだという。

 川本さんが戦後を一人で生き抜く上で、心の支えとしたのが、「寺での学び」だった。毎朝のお勤めで心を静め、手を合わせる所作を通じて周囲に感謝する気持ちを育んだ。「話し合い、理解し合い、感謝し合えば、争いは起きない」。平和記念公園(中区)で慰霊碑のガイドをしているいまにも、当時の学びは生きている。

 この日、被爆の惨状については多くを語らなかった。会場となった善徳寺にも戦争の余波があったことを実感してもらうため、疎開中の営みに重点を置いた。締めくくりに「みんなの手は、誰かをいじめたり、傷つけたりするためにあるわけじゃない。互いに助け合うためにある。感謝の気持ちを忘れないよう、時には仏様に手を合わせてほしい」と語り掛けた。

真剣に聞き入る

 子どもたちは約30分間、真剣な面持ちで川本さんの体験談に聞き入った。助言の一つ一つにうなずく姿もあった。

 三次市の小学6年桑名咲良さん(11)は「家族のみんなが突然いなくなってしまったら、どう生きていけばいいか分からない。平穏に生きていられることを、両親に感謝したい」。妹で同3年の晏寿さん(9)も「いま当たり前にある物が、当たり前には手に入らない時代があった。そのことを忘れずにいようと思う」とかみしめていた。

 同寺のサマースクールは12年前にスタート。周辺の住民や浄土真宗の門信徒に加え、長谷川憲章住職(48)の知人の家庭にも参加を呼び掛けている。焼香や礼拝の作法を学んだり、仏教賛歌「恩徳讃」を歌ったりする1泊2日の体験型のプログラムを通して、寺を身近な存在に感じてもらっている。平和学習には特に力を入れており、スタート当初から、被爆者で寺にゆかりのある川本さんに講師としての協力を要請してきた。

 長谷川住職は「私たちがいただいている毎日は、実はとても『有(あ)り難(がた)い』もの。子どもたちの心にその意味をしっかり刻みつけ、いまを一生懸命に生きてもらいたい」と願っている。

(2017年9月4日朝刊掲載)

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