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社説・コラム

天風録 『「非国民」の子』

 九州のブロック紙、西日本新聞はその人をしのび、1ページの半分以上を割いた。先日他界した筑豊の記録作家、林えいだいさん。記者が評伝に書いている。図書館以外の本棚では林さんの著作を見掛けた覚えがない、と▲さもあろう。九州や山口の炭鉱で労働を強いられた朝鮮人、公害、特攻隊員や風船爆弾など取材テーマはどれも重い。売れ筋には程遠かった。国家に振り回され、虐げられた民の側にばかり、なぜ目を向け続けたのか▲林さんを追い、昨年公開された記録映画「抗(あらが)い」で本人が語っている。「私は、非国民の子どもなんです」。神主の父は炭鉱から逃げ出した朝鮮人をかくまい、特高警察の拷問の末、息絶えた。その無念が、歴史の闇を掘り起こす作品の原点という▲聞き取りと体験取材にこだわった。ネット検索や文字情報に頼る人間からすれば、無駄が多く泥くさい。明治の足尾鉱毒事件を追った際は、政府への請願に被害農民が上京した約80キロの道をたどり、心情に迫っている▲「抗い」のホームページに肉筆が残る。<歴史の教訓に学ばない民族は結局は自滅の道を歩むしかない>。幻となった次作は芸南の毒ガス島、大久野島が舞台だったと聞く。

(2017年9月7日朝刊掲載)

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