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[変わる岩国基地] 負担減に逆行 募る不信厚木で5年ぶり艦載機離着陸訓練

「米の運用次第」 住民反発

 米海軍厚木基地(神奈川県)で5日までの4日間、空母艦載機の陸上空母離着陸訓練(FCLP)が同基地では5年ぶりに実施された。今秋に米海兵隊岩国基地(岩国市)へ移転予定のFA18スーパーホーネット戦闘攻撃機などが参加。8月に岩国へ移ったE2D早期警戒機も加わった。艦載機移転は厚木の負担軽減につながるのか。岩国でも実施される恐れはないのか―。爆音が響く基地の街には、不安と不信が渦巻いていた。(和多正憲)

 「うるさいを超えて、怖い音」。5日朝、厚木基地南側にある大和市の大和ゆとりの森公園。主婦の渡辺裕子さん(28)は艦載機が頭上を横切るたび、1歳の娘の耳をふさいだ。「ひっきりなしに飛ぶなんて。北朝鮮の影響で訓練が必要なのかな」と不安げに話した。訓練は3日の日曜を除き1日から断続的に続いた。

 公園北側には約2・5キロの滑走路が南北に延びる。FCLPは、この滑走路を空母の甲板に見立て、着陸後すぐに離陸する「タッチ・アンド・ゴー」を繰り返す。複数機が滑走路周辺を旋回しながら飛ぶため、通常訓練と比べいっそう激しい音が数分間隔で続く。

 公園内の高台から滑走路を見渡せた。スーパーホーネットが離陸したところで、直後に大きく左旋回し公園側へ迫ってきた。遠雷のような音が近づく。約2分後、空気を切り裂く爆音を残して通過した。

 米軍はFCLPを原則、硫黄島(東京)で実施しており、同基地では2012年以来。国は7月、「艦載機移転後は硫黄島へ岩国から直接向かい、厚木は利用しない」と地元へ伝えている。ただ、8月9日の岩国移転開始から1カ月足らずで負担軽減とは逆行する形で訓練は強行された。その理由を、米軍側は「台風の影響」とだけ説明する。

 岩国市も艦載機を受け入れた条件に「FCLPを実施しない」ことを掲げる。国は恒常的なFCLP施設の候補地に馬毛島(鹿児島県)の購入方針を示し、施設整備まで「米軍が引き続き硫黄島で訓練すると確認できた」と説明する。だが今も、硫黄島の悪天候時に使う予備施設として岩国基地も指定されている。

 「結局、米軍の運用次第。岩国でのFCLP実施もあり得る」。現場で監視を続ける神奈川県の「厚木基地を考える会」の矢野亮代表(65)はこう指摘した。「米軍は今後も『折に触れて』厚木を使うと明言している。艦載機移転は、二つの基地が都合良く使えるようになるだけだ」

 訓練最終日となった5日午前11時すぎ。厚木基地の正門前には、市民団体が抗議に集まり、基地の担当者に訓練中止を求める申し入れ書を手渡した。受け取った担当者は「答える立場にない。司令官に伝える」とだけ答えた。地元の大和市と綾瀬市によると、4日間の訓練実施中に市民から延べ約500件もの苦情が寄せられたという。

 抗議に参加した主婦石郷岡直子さん(77)=綾瀬市=は「移転に期待したが裏切られた」とため息をつく。その上空を岩国へ移転したばかりのE2Dがプロペラ音を響かせて通り過ぎた。

米空母艦載機移転計画
 在日米軍再編で、空母ロナルド・レーガンの艦載機61機が米海軍厚木基地から米海兵隊岩国基地へ移転する計画。今年8月9日、第1陣としてE2D早期警戒機5機が岩国基地へ移った。今秋以降、FA18スーパーホーネット戦闘攻撃機などが順次移転する予定。移転に伴い岩国基地の米軍機は約120機に倍増し、米軍関係者の総数は1万人を超える見込み。

(2017年9月7日朝刊掲載)

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