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社説・コラム

社説 日露首脳会談 主張きちんと伝えたか

 伝えるべきを伝え、日本の主張を理解させることができたのか。安倍晋三首相がロシア極東のウラジオストクを訪れ、プーチン大統領と会談した。

 6回目の核実験を強行した北朝鮮への対応では、安倍首相が石油禁輸など強力な制裁に加わるよう求めたが、プーチン氏から前向きな回答は得られなかったようだ。

 北方領土問題も返還に向けた新たな歩み寄りはなかった。両首脳が会うのは今年に入って3回目だったが、成果の乏しい会談だったといえる。

 最大の焦点は、北朝鮮への制裁強化に慎重な姿勢を見せているプーチン氏からどれだけ協力を確約できるかだった。ところが、プーチン氏はきのうの経済フォーラムの討論会でも「軍事圧力は何も生み出さない」と対話による解決の重要性を訴え、圧力を強める日米韓の動きをけん制した。

 首脳会談は今回で19回目になる。プーチン氏との親密な関係をアピールしてきた安倍首相だが、立場の違いが鮮明になった形だ。

 北方領土問題を含む平和条約締結に向けた北方四島での共同経済活動について、両首脳は昨年12月、安倍首相の地元・長門市で開いた首脳会談で検討開始に合意した。今回は、ウニやホタテなど海産物の養殖や温室野菜の栽培、観光、風力発電の導入、ごみの削減対策―の5項目のプロジェクトに優先的に取り組むことを決めた。

 プロジェクトの前提となるのは、双方の立場を損なわない法的枠組みの整備である。日本はロシアの法律でもなく、日本の法律でもない「特別な制度」を求めているが、大きな進展はなかった。

 トラブルが起きた場合の警察権や徴税権の扱いが焦点となるが、ロシアはあくまでも自国の法適用にこだわる。4島での活動を法的にどう担保するのか議論を詰める必要がある。

 ところが、ロシアから冷や水を浴びせられるような事態も起きた。メドベージェフ首相が先月、北方領土の色丹島を経済特区に指定したことだ。外国企業の誘致などを目的に税制面を優遇する制度だ。水産加工工場の新設などが計画されているという。

 ロシアの管轄権を前提にした開発を進める狙いかもしれないが、共同経済活動の前提が崩れかねない。共同経済活動を早く実現させ、次なる領土交渉へ移りたい思惑もあろう。しかし日本政府としては、主権については譲歩しないという法的整備の原則を堅持しなければならない。原則を曲げてしまえば、その後の領土交渉にも禍根を残すことになるはずだ。

 たとえ、共同経済活動が動きだしたとしても、領土問題がすぐに進展するわけではない。ロシア側には日本の主張する「特別な制度」に対する警戒感が強い。来年3月に大統領選を控え、プーチン大統領が帰属問題を巡って譲歩する可能性は、ほとんどないとみられる。

 共同経済活動を領土問題解決への一歩と位置付ける日本側の認識との違いが浮かび上がった。ロシアの出方を冷静に見極め、交渉する必要がある。経済協力ばかりが先行し、領土交渉が置き去りにされるようなことがあってはならない。

(2017年9月8日朝刊掲載)

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