×

ニュース

[インサイド] 放影研 福島原発事故後の2万人追跡 被曝作業員の調査難航

 東京電力福島第1原発の事故から11日で6年半。事故後、約9カ月の間に現場で働いた作業員約2万人の健康状態を長期間追跡し、放射線影響の有無を調査する疫学的研究が苦戦している。放射線影響研究所(広島市南区)が主導し、被爆地の蓄積を生かすプロジェクトだが、肝心のデータ収集が思うに任せない。(金崎由美、田中美千子)

 調査対象は緊急作業従事者と呼ばれる計1万9643人。2011年の3月14日から12月16日まで水素爆発後の収束作業、がれき撤去などに当たった東京電力や下請け企業の作業員だ。174人が100ミリシーベルト以上の被曝(ひばく)をした一方、ごく低線量の人もいる。

2年ごとに観察

 同期間の被曝限度は緊急的に100ミリシーベルトから250ミリシーベルトに引き上げられ、厚生労働省が健康管理など作業員の長期支援をすることが定められている。放影研が14年秋に委託された研究はその一環。2年ごとに全国の指定機関で健診を受けてもらい、がんなどの病気と線量の関係を観察する。

 被爆者調査のノウハウを駆使した研究は、原発事故の教訓を可視化し、将来の放射線防護に生かすとともに、低線量被曝の解明を試みる狙いがある。原爆被爆者の調査から被曝線量が100ミリシーベルト以上になるとがんリスクが上がることが分かってきたが、もっと低線量の場合はどうなるか明らかになっていないからだ。

 放影研で調査の指揮を執る大久保利晃・前理事長は「離職後も生涯、健診を受診できるのは大きい」とデータ蓄積に欠かせない定期健診への参加を呼び掛けているが、協力者は一部にとどまるのが現状だ。

 対象者に協力を求める書簡を郵送すると、3010人が受診を拒否した。8470人は配達済みなのに返信はない。受診の希望者は3割の5940人。それにしても実際に受診にこぎ着けるまでが一苦労だ。

 今年6月、放影研は東京都港区で健診を担う全国70余りの機関の保健師らを集めた連絡会議を開いた。会場からは「1人ずつ受診のやりとりをするのは大変。予約変更やキャンセルも多い」とため息が漏れた。対象者は全国に散り、職を求めて頻繁に居を移している人も少なくないという。

協力要請を強化

 厚労省電離放射線労働者健康対策室は「健康管理サービスの側面もあり、研究は継続するが、データとしては可能な限り人数を増やしたい」とする。放影研も本年度は下請け企業への協力要請を強化し、ホームページ開設などで受診者増へのアピールを図るが、効果はまだ見通せない。

 広島で被爆した児玉光雄さん(84)=南区=は若い頃に被爆者調査に不信感を持ち、協力を拒否。近年、意義と成果を知るようになった。「今は政府や事故の当事者が放射線被害をないかのように宣伝している。健診への協力を得るのは簡単ではないだろう。放射線の影響は見えてからでは遅い。われわれの実体験を知ることで意識を高めてもらえないか」と語る。

(2017年9月9日朝刊掲載)

年別アーカイブ