×

ニュース

戦艦大和 ソフト面に焦点 呉で潜水調査シンポ

 呉市が昨年5月に実施した戦艦大和の潜水調査の結果を基にしたシンポジウムが9日、呉市役所内のくれ絆ホールであった。これまでハード面について多く語られてきた大和の水中遺跡としての価値、当時の社会背景に焦点を当てた。(今井裕希)

 550人が聴講。専門家3人が基調講演やパネル討議を通して、新たな視点を示した。

 日本水中考古学調査会の井上たかひこ会長は、海中の大和の画像について「腐食が進んでいる。監視のモニタリングが不可欠だ」と強調。「艦の引き揚げはコストが膨大で非現実的。主砲など象徴的な一部を持ち帰って保存すれば、世界から観光客や研究者が集まる」と提言した。

 東京大大学院の加藤陽子教授(日本近現代史)は「日中戦争の傍ら、旧海軍は米国と戦う準備を進めた。しかし、展望が見えていなかったため、大艦巨砲主義を転換できなかった。大和の使い方がしっかり考えられていたのか」と語った。

 大和ミュージアム(呉市)の戸高一成館長は、海底で仰向けになった艦底の注排水孔について「浸水した場合、注排水孔から水を吸い込んで艦の水平を保った。沈没より長時間戦うことを優先したためだ」と説明。「決戦は1回戦えればよい、との当時の考え方が分かる」と指摘した。シンポは実行委員会などが主催した。

戦艦大和潜水調査
 建造地の呉市が2016年5月10~27日、長崎県五島市の男女群島南176キロに位置する東シナ海の沈没海域に民間の調査船を派遣。無人潜水探査機を遠隔操作で水深約350メートルに潜らせ、デジタル映像約50時間分と写真約7千枚を撮影。レーダーなどで計測もした。

(2017年9月10日朝刊掲載)

年別アーカイブ