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社説・コラム

『想』 土谷時子 ヒロシマ・炎の時代

 今年の夏も猛暑続きでした。このままいけば、100年後にはどのような地球になっているのだろうかと不安です。100年後というのは、よく考えてみれば近未来です。今年生まれた子どもが100歳まで生きる可能性は非常に高いのです。災害は年ごとに異常さを増しているし、耳を澄ませば戦争の足音も聞こえてきます。今こそ一人一人が、強い意志で「平和」を堅守しなければならぬと思うのは私だけではないでしょう。

 今年の8月15日、私たち市民グループは「反戦・原爆詩を朗読する集い」を開催し、原民喜、栗原貞子、峠三吉の詩を16~83歳の28人で読み継ぎました。峠三吉は今年が生誕100年に当たり、「風のように炎のように~手術室よりの報告」という朗読構成で亡くなる直前の手術台での14時間を熱く語りました。参加者は先人たちの平和への思いを新たにしました。

 「髪にそよぐ風のように生き、燃えつくした炎のように死ぬ」は、峠三吉がこよなく愛していたフランスの抵抗詩人ルイ・アラゴンの詩の一節です。36歳の若さで亡くなった峠の生き方を表した言葉でもあります。

 私たちが「広島の伝説劇」と呼んでいる創作劇があります。1963年に舞台化された芝居で、峠三吉と詩のサークル「われらの詩(うた)の会」の若者たちの物語です。48年から朝鮮戦争を挟んで、53年初頭までを描いています。作者はこの時期を「ヒロシマの心」が最も激しく燃えさかった時代ととらえ、「炎の時代」と呼びました。第2次世界大戦が終結し、やっと日本の民主化が進むかに見えたが、実は米占領軍による占領政策が着々と進み、多くの混乱が胎動し始めた時期だったのです。戒厳令下のような広島で、峠たちは国際的に湧き起こったストックホルムアピール(原子兵器禁止の署名)の活動を支え、峠三吉は「一九五〇年の八月六日」という詩を残しました。

 私たちは12月23、24日、30年ぶりにこの創作劇「河」(作・土屋清)に挑みます。「炎の時代」を生きてみます。(広島文学資料保全の会・代表)

(2017年9月10日セレクト掲載)

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