×

社説・コラム

『記者縦横』 艦載機の悲劇 忘れない

■防長本社 和多正憲

 艦載機が頭上を横切るたび、母親は女の子の小さな耳をふさいだ。「まだ1歳。うるさくても自分で押さえられないんです」。米海軍厚木基地(神奈川県)そばの公園で、空気を切り裂くような爆音に、会話は何度も中断された。

 1日から同基地で5年ぶりに実施された陸上空母離着陸訓練(FCLP)の現場周辺を歩いた。8月に移転した米海兵隊岩国基地(岩国市)の所属機も再飛来し参加。長年、騒音や事故に悩まされてきた地元住民は「艦載機移転は負担軽減になるのか」「岩国と厚木の両方が使われるだけ」との疑念を深めていた。

 1977年9月、厚木基地を飛び立った艦載機ファントムが横浜市内の住宅街に墜落。1歳と3歳の男の子が亡くなった。在日米軍再編に伴う艦載機の岩国移転は、首都圏の人口密集地にある基地の街にとって、騒音対策だけでなく、事故の危険回避の意味でも悲願だった。

 北朝鮮情勢が緊迫化する中、日米同盟の重要性は増している。その「同盟力の向上」を目指す再編は、一方で「地元負担の軽減」を目的に掲げる。二つの大義に理解を示し、山口県や岩国市も移転容認を決断した経緯がある。負担減の実感に開きがあれば、どこまで住民側が再編の本質や必要性を理解できるだろうか。

 厚木そばの公園で会った女の子は、「ママ」の一語を繰り返していた。ファントムの犠牲となった男の子も、同じ言葉を発しながら息絶えたという。ちょうど40年前。この国で起きた悲劇を忘れてはいけない。

(2017年9月15日朝刊掲載)

年別アーカイブ