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上関、原発の行方注視 国のエネルギー政策にどう反映

「新増設」進展を 推進派 CO₂削減より安全 反対派

 中国電力上関原発建設計画がある上関町の住民たちが、経済産業省が進めるエネルギー政策の議論の行方を注視している。エネルギー基本計画の見直しに加え、2050年に二酸化炭素(CO₂)を80%削減するため経済産業相が設けた有識者懇談会も先月始まった。原発新増設への言及があれば、福島第1原発事故後に町が模索するまちづくりに影響する可能性もある。(堀晋也)

 上関原発の建設予定地では、約2カ月半前に始まったボーリング調査の掘削音が響く。原発の新規制基準を考慮した調査手法で、既に約160メートル掘り進めた場所もある。ほかにも地盤目視用のトンネルの維持管理や気象観測を続けている。

 福島の事故後に準備工事は中断したが、こうした作業は順次進めており、国の安全審査再開を見据えた準備とする。「電力の安定供給に向けたバランスの良い電源構成のため、国にとっても将来、上関原発は必要」と中電上関原発準備事務所。パリ協定でのCO₂削減目標などを念頭に国の議論の進展を期待する。

再稼働は5基

 ただ、現時点で基本計画への新増設の明記は想定されていない。8月30日の懇談会の初会合でも原子力の議論は必要とされつつ、新増設には触れられなかった。「難しい状況に違いはない」と推進派の上関町まちづくり連絡協議会の古泉直紀事務局長(59)はこぼす。

 14年の基本計画見直しでは、原発を「重要なベースロード電源」と位置付けた。だが、この3年で再稼働は5基。「世論はまだまだ厳しい」と古泉事務局長。原発の必要性を町民に理解してもらう勉強会などを続ける。

 一方、原発に反対する上関町民の会の山戸孝事務局長(40)は「CO₂削減は重要だが、原発建設地の住民の安全や生活がないがしろになっては意味がない」と危惧する。

財源確保探る

 町は、準備工事の中断で本体着工の時期が不透明になり、原発関連の財源見通しが立たなくなったため、自主財源確保の道を探る。15年の町長選で柏原重海町長が公約とした上盛山(かみさかりやま)(314メートル)での風力発電事業の推進。2基を設置し、年2億円の売電収入を得る計画で、山頂付近につながる町道の拡幅工事が4月に始まった。

 山戸事務局長は「町が地域発展への選択肢を原発以外に広げたのはいいが、根本的な問題は終わっていない」と指摘する。古泉事務局長は「原子力は町の発展につながる。まずは再稼働を進め、新増設の議論も活発になれば」と求める。

エネルギー基本計画
 国のエネルギー政策の中期的な指針で3年をめどに見直す。2011年の東京電力福島第1原発事故後初めて閣議決定された14年の計画について、ことし8月9日に経済産業省の総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会で見直し議論を開始。原発の新増設を盛り込むかが焦点になっている。

新規制基準
 福島第1原発が電源を喪失し、重大事故に至った反省を踏まえ、従来の規制基準を大幅に厳格化して2013年7月に施行。重大事故が起きたときに放射性物質の拡散などに対処する設備や手順の整備、航空機衝突などを想定したテロ対策が新設された上、地震・津波対策が強化された。

(2017年9月15日朝刊掲載)

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