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社説・コラム

社説 北朝鮮再びミサイル発射 「瀬戸際戦術」通じない

 国連安全保障理事会の新たな制裁決議から、わずか4日。きのう早朝、北朝鮮がまたしてもミサイルを発射した。日本上空を通過させたのは6回目だ。船舶などへの被害は報告されていないが、国連の警告に耳を貸さず、国際社会を不安に陥れる暴挙は断じて許されない。

 制裁決議への反発であるのは明らかだ。北朝鮮経済への圧力が増すのも承知の上で、挑発行為を繰り返すのは、核保有などの譲歩を米国から引き出そうとの魂胆だろう。自らを崖っぷちに置きつつ、脅しを材料に交渉を有利に運ぼうとする。こうした「瀬戸際戦術」が通用しないことを北朝鮮は悟るべきだ。

 一方でミサイル技術の向上は日米や韓国など関係国にとってより深刻な脅威となっている。

 今回、北海道上空を通過したのは中距離弾道ミサイルとみられ、約3700キロ飛んだ。8月29日の前回とほぼ同じ方角だが、距離は約千キロ延びた。北朝鮮が「包囲射撃」を警告した米軍の要衝グアムまでの距離約3300キロを意識させる。米本土を射程に入れる大陸間弾道ミサイル(ICBM)の完成に向けたデータ蓄積を図ったとの見方もあり、米国世論が武力行使容認に傾く恐れもある。

 今回もう一つ注目すべきは制裁決議からミサイル発射までの間隔だろう。先代の金正日(キム・ジョンイル)総書記を含め、今までは新たな挑発に出るまで1~2カ月程度置く場合が多かった。国際社会の反応を見極めていたと思われる。

 今回、日を置かずして発射ボタンを押したのは、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が側近粛正などで恐怖政治や独裁を強めたのに加え、中国とロシアの「後ろ盾」が大きいのだろう。

 先日の制裁決議は石油の供給制限に初めて踏み込みながら、実効性の高い全面禁輸が見送られたのは中ロが慎重姿勢を示したからだ。追い詰め過ぎて北朝鮮の暴発を招いては元も子もないが、肩入れし過ぎるのはどうか。北朝鮮の体制崩壊を中ロが認めるはずがないと金委員長が判断し、挑発を続ける方針を固めた可能性も十分考えられる。

 「再びの暴挙で断じて容認できない」と安倍晋三首相は国連安保理の緊急会合を求めた。週明けから国連総会で一般討論が予定されており、米国は最優先課題に挙げることを示唆している。石油の全面禁輸や、前回決議で見送られた金委員長の資産凍結に踏み込むべきだとの意見も出よう。中ロにしても東アジア情勢の不安定化は得策ではないはずで、平和維持の観点から協調姿勢を求めたい。

 圧力を高めるには国際社会が足並みをそろえる必要がある。安倍首相が先日のインド訪問でモディ首相と、対北朝鮮政策で共同声明を出したのは成果といえよう。制裁の抜け穴とされる密貿易や裏取引を防ぐためには、北朝鮮に近いとされるアフリカ諸国の協力も欠かせない。

 ただ圧力一辺倒では問題は解決しない。対話あってこそだ。外交努力を訴えながら、軍事行動も「間違いなく選択肢」とするトランプ政権の強気な発言に同調しがちなムードが日本にも一部あるのが気になる。万一の事態となれば甚大な被害が及ぶことを忘れてはならない。互いに脅し合うのは北朝鮮と同じ土俵に上がることを意味する。日本の外交力が問われている。

(2017年9月16日朝刊掲載)

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