社説 核禁止条約の署名開始 被爆国の役割を今こそ
17年9月22日
ゴールはまだ先だろうが、大きく前進したのは間違いない。廃絶へ向け核兵器を違法とする初の国際法「核兵器禁止条約」の署名が国連本部で始まった。
初日は50カ国が署名し、うちタイなど3カ国は批准の手続きを済ませている。発効の条件となる50カ国の批准も、来年中にはクリアできそうだ。
ただ、署名国の列に日本はいなかった。「核兵器は要らない」との国際社会の声に背を向け、被爆国の役割を放棄した対応である。断じて許されない。
いま核兵器を巡る喫緊の問題は、自制を求める国際社会の声を再三無視して、核実験・ミサイル発射を強行する北朝鮮であるのは確かだろう。
署名開始の前日、国連本部での演説でトランプ米大統領も北朝鮮を脅した。条件を付けたとはいえ、「完全に破壊するしか選択肢はなくなる」とまで述べた。核兵器を念頭にした発言だとしたら、核兵器禁止条約では許されない「威嚇」に当たる。
振り返れば、国際司法裁判所(ICJ)は1996年、「核兵器の使用や威嚇は一般的に国際法違反」とする勧告的意見をまとめた。ただ、「国家存亡がかかる自衛の極限状況」では違法か合法か判断できないと、抜け道も残した。
今回の条約は、保有や使用はもちろん、核兵器による脅しまで違法化する、踏み込んだ内容となっている。核兵器がいかに非人道的か、廃絶の必要性を長年訴えてきた被爆地の努力の成果と言えよう。
課題は、米国など条約に否定的な保有国と、日本を含む「核の傘」の下にある国々をどう巻き込んでいくか、である。北朝鮮の脅威が高まる中、日本や韓国では、核には核で対抗するしかないという核抑止論が声高になっている。とんでもないことだ。国際社会が禁止しようとしている武器である。今から持とうとすれば、「核」抜きを前提とする、国際的な北朝鮮包囲網に亀裂を生じさせかねない。
相手が銃を持っているから、こちらも持たねば―。そんな米国のような社会が安全なのだろうか。北東アジアの非核化を目指し、北朝鮮の暴挙や暴発を国際社会の連携で防ぎながら、核開発をやめるよう粘り強く説得する。それこそ、武器を持たず安心できる社会に向かう道ではないか。核抑止論にこだわっていては、いつまでたっても平和な世界は望めまい。
非核兵器地帯は世界中に広がっている。南半球をほぼカバーしたことで明らかなように、核兵器に頼らない安全保障は決して絵空事ではない。
保有国も、国連総会での決議や核拡散防止条約(NPT)再検討会議での採択文書などで、究極的な核兵器廃絶には賛成してきた。禁止条約のような早急な廃絶の動きは現実的でないと批判するのであれば、自分たちが考える廃絶に向けた段階的なプロセスを示すのが筋だろう。
そもそもNPTで、保有国には核軍縮が義務付けられている。責任を果たそうとしないからこそ、「任せておけない」と禁止条約の動きが出てきたことを忘れてもらっては困る。
日本政府こそ早く署名すべきだ。その上で、自称している保有国と非保有国との橋渡し役として、米国などの説得に力を尽くすことが使命のはずだ。
(2017年9月22日朝刊掲載)
初日は50カ国が署名し、うちタイなど3カ国は批准の手続きを済ませている。発効の条件となる50カ国の批准も、来年中にはクリアできそうだ。
ただ、署名国の列に日本はいなかった。「核兵器は要らない」との国際社会の声に背を向け、被爆国の役割を放棄した対応である。断じて許されない。
いま核兵器を巡る喫緊の問題は、自制を求める国際社会の声を再三無視して、核実験・ミサイル発射を強行する北朝鮮であるのは確かだろう。
署名開始の前日、国連本部での演説でトランプ米大統領も北朝鮮を脅した。条件を付けたとはいえ、「完全に破壊するしか選択肢はなくなる」とまで述べた。核兵器を念頭にした発言だとしたら、核兵器禁止条約では許されない「威嚇」に当たる。
振り返れば、国際司法裁判所(ICJ)は1996年、「核兵器の使用や威嚇は一般的に国際法違反」とする勧告的意見をまとめた。ただ、「国家存亡がかかる自衛の極限状況」では違法か合法か判断できないと、抜け道も残した。
今回の条約は、保有や使用はもちろん、核兵器による脅しまで違法化する、踏み込んだ内容となっている。核兵器がいかに非人道的か、廃絶の必要性を長年訴えてきた被爆地の努力の成果と言えよう。
課題は、米国など条約に否定的な保有国と、日本を含む「核の傘」の下にある国々をどう巻き込んでいくか、である。北朝鮮の脅威が高まる中、日本や韓国では、核には核で対抗するしかないという核抑止論が声高になっている。とんでもないことだ。国際社会が禁止しようとしている武器である。今から持とうとすれば、「核」抜きを前提とする、国際的な北朝鮮包囲網に亀裂を生じさせかねない。
相手が銃を持っているから、こちらも持たねば―。そんな米国のような社会が安全なのだろうか。北東アジアの非核化を目指し、北朝鮮の暴挙や暴発を国際社会の連携で防ぎながら、核開発をやめるよう粘り強く説得する。それこそ、武器を持たず安心できる社会に向かう道ではないか。核抑止論にこだわっていては、いつまでたっても平和な世界は望めまい。
非核兵器地帯は世界中に広がっている。南半球をほぼカバーしたことで明らかなように、核兵器に頼らない安全保障は決して絵空事ではない。
保有国も、国連総会での決議や核拡散防止条約(NPT)再検討会議での採択文書などで、究極的な核兵器廃絶には賛成してきた。禁止条約のような早急な廃絶の動きは現実的でないと批判するのであれば、自分たちが考える廃絶に向けた段階的なプロセスを示すのが筋だろう。
そもそもNPTで、保有国には核軍縮が義務付けられている。責任を果たそうとしないからこそ、「任せておけない」と禁止条約の動きが出てきたことを忘れてもらっては困る。
日本政府こそ早く署名すべきだ。その上で、自称している保有国と非保有国との橋渡し役として、米国などの説得に力を尽くすことが使命のはずだ。
(2017年9月22日朝刊掲載)