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社説・コラム

社説 廃炉工程表の改定 完了見通せず 不信募る

 政府と東京電力とで作る、福島第1原発の廃炉に向けた中長期ロードマップ(工程表)が改定された。

 1、2号機のプールに残る使用済み核燃料の取り出し開始を2020年度から3年遅らせるという。溶け落ちた核燃料(デブリ)についても、取り出し工法の確定を18年度前半から19年度にする。主要な工程の時期を先送りする内容である。

 地元が落胆し、不安を募らせるのは当然だろう。「廃炉は復興の大前提であり、工程の遅れは残念だ」との声が周辺自治体から聞こえてくる。

 11年12月に策定された工程表の改定は、これで4回目となる。「30~40年後に廃炉を完了させる」という最終ゴールこそ変えなかったものの、そこに至るまでのハードルを本当に越えていけるのか。不透明さが一層増したと言わざるを得ない。

 1、2号機の燃料取り出しは前回の改定でも遅らせており、3回目の見直しである。1号機の格納容器を覆うふたのずれなどの障害が明らかになったためで、作業員の被曝(ひばく)量を抑える対策が必要となる。

 作業の安全確保を最優先することに異論はない。とはいえ主要工程の目標時期が何度も見直され、そのたびに遅れるようでは、被災地や国民の信頼感を損なっても仕方あるまい。

 新たな工程表にしても不確定な要素がまだまだ残っており、今後も目標時期の先延ばしを重ねる可能性がありそうだ。

 廃炉に当たる東電の責任者は記者会見で「これまでの経験を反映し、工程表の精度は上がっている」と、自信を見せていたが、説得力に乏しい。

 今回の工程表の改定で、デブリの取り出しについて、原子炉格納容器を水で満たさない「気中工法」を軸に進める方針を明記した。最難関への対処方針を絞り込んだことで、廃炉作業の前進をアピールする狙いが、政府や東電にはあるようだ。

 だが格納容器底部の横に穴を開けて取り出すならば、放射性物質の飛散の恐れが高まる。作業の安全をどう確保し、環境への影響を抑えるのか。作業ロボットなど技術開発もこれからという。そもそも格納容器の内部調査を試みても、デブリの分布や状態の確認さえほとんどできていないではないか。

 まずは原子炉内の状況をそれぞれ十分に把握した上で、現実的に可能な工程表を練り直し、示すべきだろう。

 デブリの取り出しはかなり困難なはずだが、東電と経済産業省は「複数作業を並行して進め、工程を最適化すれば目標達成は可能」と説明する。しかし具体的な手順となると「今後詰める」といい、心もとない。

 度重なる工程の先送りが、被災地にどれほど心理的な影響を与えるか、計り知れない。

 政府は避難指示解除に向けた動きを本格化させているが、廃炉作業が滞れば、ことに若い世代に帰還をためらわせることになるだろう。目標時期の延期は復興に水を差すものだ。

 廃炉に主体的に取り組む覚悟を示さぬ限り、事業者の資格はない―。東電経営陣は、柏崎刈羽原発の審査で、原子力規制委員会から迫られたはずだ。見切り発車の計画やその場しのぎの先送りではなく、誠実な態度と使命感が求められる。

(2017年9月28日朝刊掲載)

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