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ヒロシマにも勇気 被団協など歓迎

 ノーベル平和賞に核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN(アイキャン))が決まった6日、核兵器の廃絶へ、共に地道な訴えを続けてきた被爆者たちから「励みになる」と喜びの声が上がった。国際世論の高まりに期待を寄せ、核兵器禁止条約に署名していない日本政府に改めて翻意を求めた。

 広島県被団協(坪井直理事長)の箕牧(みまき)智之副理事長(75)は、広島市中区の事務所のテレビで受賞発表の瞬間を見つめた。ICANと分かると「私たちの運動にとっても大きな励み。廃絶へのうねりになる」と喜んだ。

 東京都港区の日本被団協事務所では役員たちが記者会見。毎年のように平和賞候補に目されながら、今回も選ばれなかった。田中熙巳(てるみ)代表委員(85)は「うれしいのと悔しいのが半分」と明かしつつ「私たちはICANが動くまでの下地をつくった」と、自負をにじませた。

 その日本被団協は今、核兵器を禁止し、廃絶する条約の締結を全ての国に迫る「ヒバクシャ国際署名」運動に力を集める。鳥取県原爆被害者協議会の石川行弘事務局長(76)は「核兵器廃絶の運動が国際的に評価された。署名への力強い後押しになる」と期待する。

 被爆者が高齢化する中、ICANは若い世代中心。島根県原爆被爆者協議会の原美男会長(90)は「協力団体への呼び掛けや結び付けのやり方が一歩先んじていた」とみる。

 7月の核兵器禁止条約制定に続く、廃絶への流れ。ただ、それに乗ろうとしない被爆国日本政府への視線は厳しさを増す。福山市原爆被害者友の会の藤井悟会長(71)は「日本政府は考え方を改めてもらいたい。これを機に、核廃絶はできるという意識が世界中に広がってほしい」。山口県被団協の森田雅史会長(74)も「唯一の被爆国である日本の条約参加への後押しに」と願った。

 もう一つの広島県被団協の佐久間邦彦理事長(72)は「私たちは国内から、特に日本政府に対して条約への参加を働き掛けていく。今回の受賞で核兵器廃絶に対する市民の関心が高まるだろう。それが世界を動かしていくのではないか」と力を込めた。

市民ら 国際的うねり期待

 被爆地の広島、長崎とゆかりが深いICANがノーベル平和賞に決まった6日、広島市民にも喜びが広がった。被爆者の思いが世界に広まり、核兵器廃絶への国際的なうねりが高まるよう期待する。

 中区の平和記念公園では夜、西区の会社員奥元圭史さん(32)が原爆慰霊碑に手を合わせていた。「核兵器廃絶へ向けた活動が注目され、実現への小さな一歩となる。核兵器を禁じる必要性をあらためて考えるきっかけにしたい」と語った。

 安佐南区の会社員山根優海さん(23)は「日本だけでなく、世界が核兵器廃絶を強く意識していると証明された。素直にうれしい」。安芸区の通訳森沢努さん(65)は「広島でも多くの人がICANの活動に関わっている。核兵器を何としても廃絶しなければ」と力を込めた。

 中区の畑山江利子さん(60)は「長年、活動してきた被爆者の皆さんも、励みになったのではないか」と受け止めた。被爆体験記の朗読ボランティアを続ける東区の清水恵子さん(73)は「朗読を聞きにくる若い世代の中にも、核抑止論に賛同する人がいる。活動が国際的に評価されたインパクトは大きい」と喜んだ。

 歓迎の声は、市内を訪れた外国人観光客にも広がった。英国人のサム・マホーネさん(24)は「世界の一人一人が核廃絶について考える好機になる」。台湾から訪れた汪菲さん(48)は「北朝鮮問題で北東アジアが揺れる国際情勢を踏まえた受賞だ」と分析した。

 ノーベル賞委員会は、核兵器禁止条約制定に向けた「革新的な努力」を授賞理由に挙げた。広島の若者たちによる平和活動団体「イーチ・フィーリングス」のメンバー中野舞貴さん(27)=安佐南区=は「核なき未来へ一歩前進したと、希望を持てる受賞だ。日本政府は姿勢を転換し、批准を急いでほしい」と望んだ。

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本社が号外

 中国新聞社は6日、今年のノーベル平和賞に、核兵器禁止条約の制定に尽くしたICANが決まったと報じる号外約5千部を発行した。広島市のJR広島駅前(南区)や紙屋町周辺(中区)など3カ所で配り、人々が手にした。

 号外は「ノーベル平和賞ICAN」の見出しで2ページ。ICANの組織概要や功績を紹介。条約制定の歩みを振り返る年表や、被爆者や関係者が活動する写真も載せた。

 紙屋町で受け取った東区の看護師加藤美恵さん(52)は「受賞が、戦争や核兵器のない世界の実現につながってほしい」と願った。

(2017年10月7日朝刊掲載)

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