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緊急連載 核なき世界への鍵 ノーベル平和賞ICAN <上> 奮闘

 ノーベル平和賞受賞に決まった核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN(アイキャン))。若いメンバーたちが被爆者や各国の団体と連携して市民社会の声を束ね、歴史的な核兵器禁止条約の制定に貢献した。その奮闘ぶりや、共に活動する被爆者たちの思いを緊急連載で伝える。

市民の力 共感広がる 禁止条約 連携促す

 9月20日、米ニューヨーク・国連本部での核兵器禁止条約の署名式。ICANのベアトリス・フィン事務局長は国連事務総長らに続いてあいさつし、出席した40以上の条約推進国・地域をたたえた。「この条約は、広島・長崎の原爆と世界各地の核実験の被害者の意志を表している。あなたたちは、モラルリーダーシップを示してくれた」

中小国を下支え

 核兵器を全面的に禁じる初の国際条約は7月7日、国連での交渉会議において核を持たない122カ国・地域の賛成で採択された。ボイコットした核保有大国や日本に比べ、外交官も少ない「中小国」が主導。それをICANが多方面で下支えした。核兵器廃絶へ、望ましい条約の中身を議場内外で積極的に提言し、出席者たちに浸透させた。

 条約の文案を巡る議論が佳境に入った6月15日からの交渉会議後半、その動きは際立った。米英日やオランダなど多国籍のメンバーたちは毎朝、議場そばのラウンジで「作戦会議」。核兵器の「使用の威嚇」や、開発などへの「融資」…。条約で禁止を明示する事項を追加しようと、各国の外交官に直談判した。前日の議論や条約への要望をまとめたペーパーも配った。

 「この会議は市民社会の役割が重要」(交渉会議のホワイト議長)と各国も理解を示し、大半の交渉で非政府組織(NGO)が参加できるようになった。ICANの意見を聞いた中南米や東南アジアの国々が同調。条約の成案では使用の威嚇の禁止が明示された。融資にも規制の網を掛ける方向になった。

 「核抑止政策の柱をなす威嚇が入り、廃絶へより強い条約になった」。条約採択の日、米国で反核運動を続ける、ICAN国際運営委員の一人、レイ・アチェソンさん(35)は笑顔を見せた。ちょうど誕生日。採決前の傍聴席では「ハッピーバースデー」の合唱が起きた。外交官も拍手を送る姿が、各国政府と市民社会が一体となって実現させた禁止条約を象徴していた。

 ただ禁止条約を巡って「世論」とは温度差がある。若いメンバーらはPRにあの手この手を繰り出した。

折り鶴置きPR

 あなたがここにいてくれたら―。交渉の議場では、不参加の日本代表席に英語でそう記した折り鶴を置き、メディアの注意を引いた。同じフレーズと不参加の国々の国旗を重ねた画像をインターネットで発信した。米ロなどの首脳の顔写真と「核兵器を愛している」との「声」を重ねた風刺画像なども作った。

 傍聴席には、核ミサイルをへし折った赤いICANのロゴマークを貼ったパソコンがずらり。キーボードをたたき、政府代表や被爆者、NGO代表らの発言をリアルタイムでツイッターに投稿した。

 「反発する保有国や核の傘の国を条約に入れるのに一番大事なのは『パブリック・アウェアネス(市民意識)』」。PRに携わるオーストラリアのティム・ライトさん(32)は言う。フィン事務局長も、署名式で加盟の広がりに自信を見せていた。「画期的な一歩は全会一致では進まない。奴隷制でも廃止には多くの反発があった。これからICANは各国や被爆者、国際機関、市民社会と連携し、条約をさらに強くする」。ノーベル平和賞受賞はその後押しになる。(水川恭輔)

(2017年10月7日朝刊掲載)

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