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ゲバラと共闘 理想追う 日系人の半生たどる 「エルネスト」 阪本監督 広島に思い

 キューバ革命の指導者チェ・ゲバラの部隊に参加し、ボリビア軍事政権と戦った実在の日系人、フレディ前村ウルタードの半生をたどる日本・キューバ合作映画「エルネスト」が公開中だ。冒頭の約20分を費やし、ゲバラが平和記念公園(広島市中区)を訪れた史実を描いた阪本順治監督は「日本人として、ぜひ広島のシーンから映画をスタートさせたかった」と語った。(西村文)

 1962年、母国ボリビアに貢献するため医師を目指していた日系2世の青年フレディ(オダギリジョー)は、キューバの首都ハバナの医学校に留学。キューバ危機の際にゲバラ(ホワン・ミゲル・バレロ・アコスタ)に出会い、彼の思想や行動に共感を抱く。

 64年、ボリビアで軍事クーデターが勃発。軍政を倒すためゲリラ隊に加わることを決意したフレディは、ゲバラから「エルネスト」という戦士名を授けられ、ボリビアへと向かう―。

 日系人を題材にした別の映画の企画を立案中、たまたまフレディの伝記に出会った阪本監督。「ゲバラと一緒に戦った日系人がいたことに驚き、強く引き付けられた」。59年にゲバラが広島を訪れて原爆慰霊碑に花を手向けた史実と、フレディの半生を結び付けることで、「日本人にしか作れない映画になる」と確信。キューバに10回、ボリビアに2回渡航して取材を重ね、自ら脚本を執筆した。

 かつての同級生が語った「寡黙な人」というフレディの人物評と、阪本作品に2本出演経験のあるオダギリの印象とが重なったという。監督からの出演オファーに即決したオダギリは、半年かけてボリビアなまりのスペイン語をマスター。12キロ体重を落として撮影に臨んだ。

 「広島のシーンは単なるエピソードではなく、丁寧に描きたかった」。広島でゲバラを唯一取材した中国新聞記者、林立雄さんの遺族から取材メモの提供を受け、ゲバラの行動や言葉を忠実に映像化した。ゲバラが案内役の県職員に尋ねる「あなたたちはアメリカにこんなひどい目に遭わされて怒らないのか」という言葉が鮮烈な印象を刻む。

 理想の追求を「非現実的」とやゆしがちな日本社会の現状にあらがうような硬派の作品。「ゲバラやフレディの真っすぐな思いは正直、自分自身も失っていた。今の若者や政治家の心に突き刺さってほしい」

(2017年10月7日朝刊掲載)

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