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社説・コラム

社説 ’17衆院選 安全保障と自衛隊 専守防衛に徹すべきだ

 北朝鮮はことし2度にわたって、日本上空を通過させる弾道ミサイルを発射した。断じて許されない暴挙である。

 核実験を含め度重なる挑発行動を安倍晋三首相は「国難」と呼び、北朝鮮対応を衆院解散に踏み切った理由の一つに挙げた。確かに有事の備えや警戒は欠かせない。ただ北朝鮮の脅威を強調しようとも、安全保障関連法に対する違憲の疑いは拭い切れない。

 この法律によって、わが国が直接攻撃されなくても、米国などの同盟国が窮地に立たされ、それが日本の「存立危機事態」と政府が判断すれば武力行使ができるようになった。歴代政権が憲法上容認できないとしてきた集団的自衛権の行使である。

 戦後日本の安全保障の姿を根本から変えた法律といえよう。昨年3月の施行から初の衆院選である。改めて、じっくり考えたい。

 いたずらに恐怖心をあおるのではなく、首相には法案可決後に約束した「国民の理解が得られるよう説明する努力」を果たしてもらいたい。その思いを一層強くさせたのが、法律に基づいて今春から始まった米軍への後方支援だ。

 ミサイル防衛に当たる米イージス艦に海上自衛隊が洋上給油をし、米艦を海自艦が守る「武器等防護」も始めた。詳細の非公表は米側の意向とされるが、安倍政権は国民への説明責任をどう考えているのか。なし崩しの既成事実化は許されない。臨時国会などで歯止めの議論をすべきだったが、解散で機会を奪われたのは残念でならない。

 日米同盟に肩入れし過ぎて、北朝鮮を無用に刺激する事態は避けたい。憲法9条は戦力不保持と交戦権否認を定める。自衛隊は組織の原点に立ち返って「専守防衛」に徹するべきだ。職務への使命感を口にする隊員はもとより、多くの国民もそう願っていよう。

 憲法論議とリンクする安保関連法に対する野党のスタンスは幅広い。日本維新の会とともに安保関連法を評価、容認する希望の党は、民進党からの合流組に「踏み絵」を迫った。

 希望は「与野党の不毛な対立」からの脱却を目指すというが、解せないのは公約にある「憲法にのっとり適切に運用」との文言だ。多くの憲法学者から違憲性を指摘されている安保関連法をどうすれば憲法にのっとって運用できるのだろうか。

 一方で安保関連法に反対するのは立憲民主、共産、社民の3党で、選挙区の候補者調整にもつながった。立憲民主は対案として公約に「領域警備法の制定と、憲法の枠内での周辺事態法強化」と記している。ただ有権者への説明は十分と言い難い。

 安保関連法が運用段階に入っても政府が訴えていた北朝鮮に対する抑止力には必ずしもつながっておらず、むしろ挑発はエスカレートしている。3年前の解釈改憲以降、たがが外れたように政府・与党から過激な発言が相次ぎ、防衛力増強ありきに向かっているのも気掛かりだ。

 防衛費は右肩上がりで5兆円を超えた。敵基地攻撃のミサイルを保有すべきだとの声も上がっている。武器による脅し合いは緊張を高め、取り返しのつかない暴発を招きかねない。外交による平和的な解決を決して諦めてはならない。

(2017年10月19日朝刊掲載)

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