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基地・原発「全国の問題」 マスコミ倫理懇 那覇で大会

 日本の安全保障は「沖縄問題」として語られ、原発報道は立地地域の課題の枠を出ていないのではないか―。「沖縄で問う 日本の今とメディアの責務」をメーンテーマに9月末、那覇市で開かれたマスコミ倫理懇談会全国協議会の第56回全国大会では、こうした指摘や懸念の声が上がり、参加者は社会問題として息長く伝えていくことを誓った。二つの分科会の議論を報告する。

基地

沖縄と本土、 認識に違い

 「沖縄に依存する日本の安全保障を問う」をテーマにした分科会では、全国の米軍基地の74%が集中する沖縄の現状に対する地元メディアと本土の大手メディアの認識の違いが浮き彫りになった。

 沖縄タイムスの崎浜秀光論説副委員長は、自社が日米安保の被害現場で取材しているのに対し「大手メディアは官僚取材で高みから見ている」と語った。

 鳩山由紀夫元首相の退陣理由となった米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題を例に、「官僚目線で日米同盟への影響だけに注目していた。米国、官僚、大手メディアの三位一体で辺野古移設を主張した」と批判した。

 琉球新報の普久原均報道本部長は在日米軍再編の交渉時、「米側が米軍基地の本土移転案を提示した事実を大手メディアはほとんど報じなかった」と指摘。「基地が沖縄に在り続ける方が都合が良く、それに合わない報道を除外している。日本社会を反映しているのでは」と取材姿勢に疑問を投げ掛けた。

 こうした本土メディアへの批判や疑問について、朝日新聞の国分高史論説委員は「取材先の考えに影響されるのは、ある程度やむを得ない。霞が関と(沖縄との間に)は埋めようのないギャップがある」としつつ、「三位一体ということは決してない」と強調した。

 岩国市の米海兵隊岩国基地に先行搬入され、普天間飛行場に配備された垂直離着陸輸送機MV22オスプレイについても論議した。

 本土メディアからは「配備が分かっている上でどう報じるか、ジレンマを抱えている」「安全性だけでなく、沖縄への過重負担問題を伝えるべきだ」といった意見が出た。

 沖縄タイムスの崎浜論説副委員長は「配備が終わればまた、本土の関心は薄れてしまうのでは。基地を沖縄の問題とするか、全国の問題とするかの大きな分岐点だ」と論じた。

 最後に、琉球新報の基地関連記事の転載を2年間続けている高知新聞の取り組みが紹介された。高知新聞の中平雅彦編集局長は「基地問題は政争の具ではない。抑止力や地理的優先の有無など(基地問題の)本質に迫る報道が本土メディアには問われている」と課題を提起した。(岩国総局・大村隆)

原発

情報隠し 見抜く力必要

 原発報道をテーマにした分科会では、福島第1原発事故をめぐる報道への反省の声が相次いだ。政府や東京電力の「情報隠し」を見抜く力が報道機関に備わっているか―。参加者は、原発報道の検証が道半ばとの認識で一致した。

 「被害状況など一次情報を伝えることにきりきり舞い。われわれも原発の『安全神話』に支えられ、準備不足だった」。読売新聞東京本社の井川陽次郎論説委員は、事故直後を振り返った。報道機関それぞれが取材態勢を省みる必要性を強調した。

 「事故後の報道は国家権力の監視、批判を怠った」と指摘したのはニューヨーク・タイムズのマーティン・ファクラー東京支局長。炉心溶融(メルトダウン)を認めるのに時間がかかった問題など、政府の情報公開の失敗を報道機関が切り込めなかったことに「国民の信頼を失い、不信感を生んだ」と続けた。

 東京新聞の大場司社会部長も、「事故直後は『大本営発表』になってしまった」と述べた。

 原発が立地する地域の地方紙からも、発言が相次いだ。中国電力島根原発(松江市鹿島町)から9キロの場所に本社がある山陰中央新報報道部の森田一平担当部長は「原発問題は立地地域の問題とされていないか。原発リスクが地方に押し付けられる日本の社会の在り方を考えるべきだ」と投げ掛けた。

 琉球新報の新垣毅社会部副部長も日本の安全保障が沖縄の基地問題として語られる風潮を引き合いに、「原発事故が福島だけの問題と矮小(わいしょう)化される恐れがないか」との危機感を示した。

 福島民報の佐久間順社会部長は事故から1年半過ぎた今も、県内外に約16万人いる避難者の現状を報告。「避難の必要性について家族で意見が食い違ったり、避難所で住民同士が衝突したりしている」と、長期化する避難生活がもたらす住民同士の感情的なしこりに懸念を示した。

 その上で佐久間部長は「事故後のさまざまな課題を読者目線で掘り起こし、紙面を再構築する必要がある」と強調した。(報道部・山本乃輔)

マスコミ倫理懇談会
 「マスコミの倫理の向上と言論・表現の自由の確保」を目的に1955年3月、東京で発足。各地で設立が続き、58年に全国協議会が結成された。新聞社や通信社、放送局、出版社、広告会社など219社・団体(9月30日現在)が加盟する。毎年春に公開シンポジウムを、秋に全国大会を開いている。

(2012年10月7日朝刊掲載)

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