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社説・コラム

中国新聞 政経講演会 北朝鮮の核ミサイル脅威と東アジア

■共同通信客員論説委員 平井久志氏

圧力一辺倒 出口見えず

 中国新聞社と中国経済クラブ(山本治朗理事長)は26日、広島市中区の中国新聞ビルで政経講演会を開き、共同通信の平井久志客員論説委員が「北朝鮮の核ミサイル脅威と東アジア」と題して話した。「第2次朝鮮戦争」が勃発する懸念を示し、「日本が巻き込まれないために何をすべきか考えないといけない」と強調した。要旨は次の通り。(松本大典)

 北朝鮮のミサイル技術は日々進歩している。3、4発のミサイルを同時発射でき、日本の迎撃技術では撃ち落とせない。移動式の発射台も増やしており、人工衛星で捕捉するのも難しい。エンジンの燃焼実験も重ね、中距離弾道ミサイルや大陸間弾道ミサイル(ICBM)に使われている。

 4月の軍事パレードではこうしたさまざまなミサイルが登場し、5月以降、一貫した計画の下、一つ一つ実験が続けられてきた。9月15日に発射されたミサイルは最長の3700キロを飛ばすことに成功した。ここ1カ月以上沈黙を保っているが、より長い距離を飛ぶ潜水艦発射型やICBMを開発していることを示す資料もあり、今後これらの実験も予測される。太平洋上での水爆実験の可能性も指摘されている。

 核開発も非常に危険なレベルにある。9月の核実験は、広島原爆の10倍以上の破壊力と言われる。

 なぜ北朝鮮が核・ミサイル開発を続けるのか。冷戦後の情勢をもう一度考える必要がある。1988年のソウル五輪以降、韓国は中国、ロシアとの国交正常化を進めた。この間、北朝鮮も日朝国交正常化や韓国との和解を進めようとしたが、ともに失敗した。結果、北朝鮮は国際的に孤立した。米韓に対抗するため残された方法が、核・ミサイル開発だった。

 危惧されるのは、米トランプ政権と金正恩(キムジョンウン)政権が「言葉の戦争」を繰り返していることだ。「軍事攻撃」と「軍事的な圧迫」には大きな差がある。だが、偶発的ミスが起こった場合、本当に戦闘に発展する可能性がある。朝鮮半島で戦争が起これば、北朝鮮指導部は、韓国や日本を巻き添えにしようとする危険性がある。

 米国のあるシンクタンクは、軍事衝突が起こって東京とソウルに25キロトンの核兵器が使われた場合、死者は210万人、負傷者は770万人と予測している。北朝鮮側が流した画像に、在日米軍が北朝鮮のミサイル攻撃のターゲットになっていることをさりげなく示した資料もあった。米海兵隊岩国基地(岩国市)も攻撃対象になりかねない。第2次朝鮮戦争は対岸の火事ではない。

 安倍晋三首相の対北朝鮮政策は圧力一辺倒だ。だが、制裁を加えて対話へと導くのか、金正恩政権を倒すのか、出口が見えない。韓国が国際的に非難を浴びながらも人道支援に傾くのは来年2月に平昌冬季五輪を控えているから。3年後の東京五輪で上空をミサイルが飛ばないよう、私たちも自分たちの問題として考えなければならない。

ひらい・ひさし
 52年、香川県観音寺市生まれ。早稲田大法学部卒。75年に共同通信社に入社し、ソウル支局長、北京特派員などを経て、12年から現職。13年から17年9月まで立命館大客員教授を務めた。

(2017年10月27日朝刊掲載)

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