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社説・コラム

社説 核廃絶 国連委決議 被爆国の責任を果たせ

 唯一の戦争被爆国として訴えてきた核兵器廃絶は、言葉だけだったのではないか。そんな厳しい目が今、国際社会から向けられている。日本政府はもっと危機感を持って、対応を改めるべきである。

 核兵器廃絶決議案が今年も、軍縮問題について話し合う国連総会第1委員会で採択された。日本の主導で1994年から毎年提出され、本会議で採択されてきた。ただ、少しずつ増えてきた賛成国は今年、144と昨年より23少なくなった。決議案の中身に疑問点が多いからだ。

 何より、今年7月に採択された核兵器禁止条約に直接触れていないことである。ここ数年、国際的な議論を経て進んできた結果生まれた条約だからこそ、日本も積極的に参加した方がよかった。しかし、ずっと否定的だ。核軍縮に後ろ向きな米国のトランプ大統領に遠慮しているのか。それでは、被爆国としての役目は果たせまい。

 ブラジルやニュージーランド、コスタリカなど禁止条約の旗振り役だった国は、日本主導の決議案に対して昨年の賛成から棄権に回った。対照的に、核保有国の英国やフランスは棄権から今年は賛成に転じた。

 日本政府の言い分はこうだ。禁止条約を巡って溝が深まっている核兵器保有国と条約推進国との橋渡し役になるための決議案である、と。しかし投票結果を見ると、核廃絶を目指す国より保有国にとって望ましい内容だったことは明らかだ。これでは、日本が本気で核廃絶を目指しているのか疑われるのも当然だ。政府は、結果をもっと深刻に受け止めなければならない。

 核兵器の非人道性に関する表現など、昨年の決議案より後退した印象が拭えない。「まるで核保有国が出したかのような内容との印象を持つ」。長崎市の田上富久市長の出したコメントが的を射ているのではないか。

 怒りや落胆の声も広がっている。「被爆者への裏切りだ。失望を超え、腹立たしい」。広島で被爆し、移住先のカナダを中心に原爆の惨禍を英語で訴えているサーロー節子さんも、その一人だ。被爆者らが政府を非難するのも当たり前だろう。

 禁止条約を主導した国際非政府組織(NGO)核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN(アイキャン))は12月、ノーベル平和賞を受賞する。それだけ条約が国際的に評価されている証しだろう。このまま保有国の肩を持ち続けるのか条約を進めるのか、日本が進むべき道は明らかである。

 サーローさんも平和賞の授賞式に出席し、被爆者として初めてスピーチする予定だ。人類と核兵器とは共存できない―。多くの犠牲を伴い、原爆の焼け野原から得られた教訓をしっかりアピールしてほしい。

 もちろん、核兵器を巡る今の最大の問題である北朝鮮にどう対応するかも重要だ。自制するよう求める国際社会の声を無視して核実験やミサイル発射を強行し続けている。それでも、あくまでも対話を通して暴発を防ぎ、核兵器を放棄させる方策を国際社会は探る必要がある。

 日本政府は、人類史上で初めて原爆の閃光(せんこう)を浴びて無念の死を遂げたり、70年以上も苦しみ続けたりしている人々の代弁者にならなければならない。今回のことを反省し、しっかり考え直して対応すべきである。

(2017年10月30日朝刊掲載)

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