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オバマ氏来訪求め書簡 元原爆資料館長の高橋昭博さん

■記者 森田裕美

 元原爆資料館長の高橋昭博さん(77)=広島市西区=が、オバマ次期米大統領に被爆地訪問を要請する手紙を書いた。昨年9月、広島市であった主要国(G8)下院議長会議(議長サミット)の際に対面した同じ民主党のナンシー・ペロシ下院議長あてに送り、思いを託す。

 8日、市役所で会見して手紙の内容を説明した。科学技術担当補佐官に核兵器廃絶論者を任命したオバマ氏の核政策へ期待感を表明。広島で資料館を見学して被爆者の声を聞くよう求め、「訪問は、全人類にとっての新たな時代の始まり」と思いをつづる。

 高橋さんは昨年11月、ペロシ議長から議長サミットの際の被爆証言に対する礼状を受け取った。「せっかく連絡する方法があるのだから」と知人らに勧められ、次期大統領へのメッセージを託すことを決めた。英訳ができ次第、送る予定。

 高橋さんは「広島訪問が実現すれば恨みつらみをぶつけるより、未来の核軍縮につなげてもらえるよう働きかけたい」と期待していた。

(2009年1月9日朝刊掲載)

アメリカ合衆国大統領
バラク・オバマ閣下

謹啓 2009年1月20日、閣下は第44代米国大統領にご就任になりました。大変おめでとうございました。心からお祝いを申し上げます。

 私は、広島市に住む高橋昭博と申します。現在77歳でございます。若い頃から、ずっと広島市役所に勤務し、その間、平和記念資料館長(原爆資料館長)を務めたこともございます。

 私は、現在は定年退職して、妻と共に余生を送っております。私は、被爆の影響である慢性肝臓炎をはじめとするいろんな病気と闘っております。そうした病身を押して日本各地から広島を訪れる沢山の小・中・高校生に、「私の被爆体験と平和について」のお話を語り続けております。時として海外にも出向いております。

 私は、中学2年生、14歳の時、爆心地から1.4キロメートルの中学校の校庭で被爆し、後頭部、背中、両手、両足など、身体の3分の1以上に大火傷を負いました。逃げる途中で偶然に出会った、大叔父夫婦に助けられ、自宅に帰ることができました。

 それから、およそ1年半の闘病生活ののち、文字どおり九死に一生を得ました。級友およそ60名のうち、現在14が生き残っております。私は、わずかな生き残りの一人でございます。

 さて、私は、ジョン・F・ケネディ大統領以来、米国民主党には期待と親近感を抱いてきました。今日、閣下が第44代米国大統領にご就任になりましたことを心から喜び、ご活躍を大いに期待しているところでございます。

 日本のある経済ジャーナリストが、「オバマ氏の当選は、目線が下のほうにあったからである。みんなを幸せにすることに視点が合っている人なんだと、人びとが感じ取ったのだと思う」と、新聞紙上で語っております。私も全く同感でございます。閣下の目線は、まさに庶民にあります。米国の庶民を幸せにするために、閣下が大統領にご就任になったのだということでございます。

 と同時に、核兵器廃絶論者として著名なジョン・ホルドレン米国ハーバード大学教授を大統領の科学担当補佐官に任命されたことは、大幅な核軍縮を進めるという閣下の強いご意志と姿勢が偽りでないことを国の内外に示されたものだと、私は高く評価し、ご活躍を大いに期待しているところでございます。

 このお手紙の最後にお願いがございます。オバマ大統領閣下、ぜひ広島においでください。そして、原爆資料館をご見学いただきますと共に、「私の被爆体験と平和について」の訴えもお聞きいただければ、私としましてはこの上ない喜びであり、光栄の至りでございます。

 オバマ大統領閣下の広島ご訪問は、過去を蒸し返したり、過去を裁くことにつながってはならないと、私は強く思っております。ご訪問は全人類にとっての新たなる時代の始まりとなり、核兵器廃絶への力強い大きな第一歩とならなければならないと思っているところでございます。

 昨年9月に広島で開催された「G8下院議長会議」の折、米国下院議長ナンシー・ペロシ閣下にも「私の被爆体験と平和について」の訴えをお聞きいただきました。下院議長閣下は「ミスター・タカハシは立派な人だ」と身に余るお言葉をいただきました。このことは永久に忘れることはできません。

 ところで、現在の広島市長秋葉忠利氏は、歴代の広島市長の中でも傑出した方で、私は心から尊敬し、信頼しております。その市長が音頭を取り、呼びかけて開催する「オバマ米国大統領歓迎広島市民集会」に大統領閣下にご出席いただけるならば、広島市民はどんなにか喜ぶことでしょう。米国国民の82%という圧倒的支持率を誇る大統領閣下にご出席いただけるならば、この歓迎集会は大いに盛り上がるに違いありません。

 このお手紙の中で、大統領を「閣下」とお呼びしてまいりましたが、私は、むしろ、「オバマさん!」とお呼びしたくなるような「親しみ」を感じております。失礼であればどうぞお許しください。

 最後になりましたが、オバマ大統領閣下のご佳勝と、世界的なご活躍を心から期待してやみません。

敬白

2009年1月
高橋 昭博
アメリカ合衆国下院議長
ナンシー・ペロシ閣下

謹啓 厳しい寒さが身に沁む頃、議長閣下にはいかがお過ごしでしょうか。私たち被爆者は、議長閣下が米国国民の幸せと世界の平和実現のためご尽力いただいておりますことを、大変心強く思っております。

 先日は、ご多用の中、ご丁寧にもご返事をいただきまして、光栄に存じております。心から感謝申し上げます。

 このたびは、議長閣下にお願いがありお手紙を差し上げる次第でございます。

 まず第一に、オバマ米国新大統領閣下に私からのご当選のお祝いをお伝えいただきたいと存じます。そして、ぜひとも広島ご訪問を実現させていただき、さらに、「私の被爆体験と平和について」の訴えをお聞きいただきますよう、同封のオバマ新大統領閣下への私からのお手紙を添えて御願い申し上げていただければ、これに過ぐる喜びはございません。

 オバマ大統領閣下の広島ご訪問は、過去を蒸し返したり、過去を裁くことにつながってはならないと、私は強く思っております。ご訪問は全人類にとっての新たなる時代の始まりとなり、核兵器廃絶への力強い大きな第一歩とならなければならないと思っているところでございます。

 また、私が心から尊敬し、大きな信頼を寄せる、秋葉忠利広島市長と平和市長会議も、オバマ新大統領閣下に広島をご訪問いただくプランを考えております。ぜひ大統領閣下へお伝えいただきたいと存じます。

最後になりましたが、議長閣下のご佳勝とますますのご活躍を心から祈念してやみません。 敬白

2009年1月
高橋 昭博

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