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社説・コラム

天風録 『ガジュマルの木』

 成長すると、枝を幾つも広げて、幹から垂らした根も幹のように徐々に太くなる。確かにガジュマルの木は防風林に適している。沖縄で暴風雨対策のため植えられたのも、うなずける▲その木をこよなく愛したのが、占領下の那覇市長や本土復帰後の国会議員を務めた瀬長亀次郎さんだ。強い風雨にさらされても、しなやかに受け流し屈しない姿に引かれたのか。自身も、人権軽視の米軍に正論で対峙(たいじ)して、圧力を何度もかけられた▲補助金の打ち切りや水道水の供給を止められた末に、米軍が都合良く変えた「法律」で市長の椅子から引きずり降ろされた。それでも、「不屈」を貫き通したのは、ガジュマルのように市民を守ろうとしたからだろう▲「カメジロー」の愛称で知られ、演説会があれば、市民は早めに晩ご飯を済ませて家族で聴きに行くほど親しまれていた。その半生を追ったドキュメンタリー映画「米軍(アメリカ)が最も恐れた男」が広島、尾道両市で公開中だ▲悲惨な地上戦と今の過重な基地負担に目が向き、沖縄に戦後吹き荒れた暴風雨は私たちの視野から抜け落ちがちだ。映画は気付かせてくれる。カメジローとその時代を知らずに沖縄を語ることの浅はかさを。

(2017年11月4日朝刊掲載)

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